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    →(10A)ペットの医療過誤判例


我が家のペットが病気にかかったので動物病院で治療したもらったが、余計病気が悪化した、或いは手術をしてもらったところ手術ミスにより死亡した等のペットの獣医療事故(診断ミス、手術ミス)については民法上、獣医師による診療契約の債務不履行責任を追及する方法と、獣医師の不法行為責任を追及する方法があります。ペットの診療契約においては、委任者である飼い主と受任者である獣医師との間に一種の委任契約が締結されているとみることができ、獣医療行為を委任された獣医師には善管注意義務がありますので、事故が発生したということは善管注意義務違反の疑い(自動車の運転手であれば前方不注意)があるとも考えられます。
訴訟において飼い主が獣医師の不法行為責任を追及するためには、自ら獣医師側の過失を立証しなければなりませんが、一般人である飼い主がプロの獣医師の診療上又は手術上の過失を立証するのは並大抵のことではできません。一方の債務不履行責任を追及する場合は、委任契約において獣医師側が病気を治す又は怪我を治す(ために全力を尽くす)という債務を負うと解釈すると、飼い主はペットの病気が逆に悪化した又は傷が更にひどくなった若しくは死亡したという事実を立証すればよく、飼い主が獣医師側の過失を立証する必要はありません。この場合、獣医師側が自己の免責を得るには、獣医師側に過失のなかったことを立証する必要があります。


獣医師が、犬の蓄膿症治療のための卵巣子宮全摘出、口腔内腫瘍治療のための下顎骨切除、及び乳腺腫瘍切除の3つの手術を同時に行って、結果的に犬を死亡させた事件で、東京高判平19.9.27は、腫瘍は良性で不必要な手術であったばかりか、どのような手術をするかなど飼主にろくに説明もせずに不必要・不適切な手術を行ったと獣医師の過失を認め、飼い主親子三人に対する慰謝料105万円も含めて、約141万円の損害賠償を命じています。

猫の死亡事故が裁判で争われた宇都宮地判平14.3.28では獣医師側に損害賠償として、93万円の支払いが命じられています。

糖尿病の日本スピッツ犬が死亡した医療過誤事件裁判(東京地判平16.5.10)において、裁判官は、獣医師が犬にインスリンを投与しなかったことに注意義務違反がある、早期に犬にインスリンを投与すれば死亡は避けられたと獣医師側の過失を認定し、不法行為及び診療契約の債務不履行による損害賠償として飼い主の夫婦二人に合計60万円の慰謝料を含め合計80万円強の支払を命じています。


当該スピッツ事故の場合、飼い主は獣医師側の不法行為を立証するため、複数の獣医科病院に連れて行っており、被告となった獣医科病院の明らかな過失を立証する証言をとっていたため、裁判においてインスリンを投与しないことが不法行為であると認定されましたが、普通の場合、ここまでの証言を集めるのは極めて難しいと思われ、単に獣医師側の債務不履行責任を追及するのが現実的と考えられます。
単純に経済的にみると、これだけ苦労して時間・費用をかけ心労をつくして訴訟にもっていき、慰謝料額が画期的と言われる裁判においてさえ勝ち取ることができた金額が80万円、そのうち40万円が弁護士費用に流出しますから、自分で負担した費用は全額弁済されるものではないと考えるのが現実的です。亡くなった家族同然の犬の名誉のためにも勝訴判決をもらうまで戦うということでもない限り、ここは穏便に和解契約により当事者間である程度納得のいく解決を模索することもできますし、簡易裁判所で話し合いをする「民事調停」による解決の道も開かれています。


獣医科病院によっては「手術中の不測の出来事について一切病院の責任を問いません」との同意書に署名させられることもありますが、明らかな判断ミス・手術ミスについては、同意書の署名がある場合でも、善管注意義務を負うプロの獣医師には診療契約上の債務不履行による損害賠償責任が発生します。そのため、医療過誤に備えて獣医師は保険に加入している場合が多いようです


債務不履行責任 獣医側が免責を得るには、獣医側が自己に故意/過失のないことを立証しなければならない
不法行為の責任 ペットの飼い主が獣医側の故意/過失を立証しなければならない

損害賠償請求 債権者・ペット飼い主 債務者・獣医
債務不履行

帰責事由の立証不要

債務不履行しながら債権者 の立証ないため債務者が責任を逃れるのは 理不尽だから

自己の「責に帰すべき事由」(故意/過失)がないことを立証する義務あり
不法行為 自己に故意/過失ないこと及び獣医の故意/過失を立証しなければならない 自己の不法行為がないと主張するのだから当然、自己に故意/過失ないことを証明しなければならない



(10A)ペットの医療過誤判例
(10-1) 【東京高判平19.9.27】  141万円
獣医師が、犬の蓄膿症治療のための卵巣子宮全摘出、口腔内腫瘍治療のための下顎骨切除、及び乳腺腫瘍切除の3つの手術を同時に行って、結果的に犬を死亡させたが、
                               →全文を見る
(10-2) 【宇都宮地判平14.3.28】  93万円(控訴後和解)
American short hair種日本第1位に入賞実績のある5才の猫に避妊手術を施したところ、3日後に死亡、手術に際して獣医師が誤って左右双方の尿管を結紮した過失が認められ、93万円の損害賠償を命じた。        →全文を見る

(10-3) 【東京地判平16.5.10】  80万円
日本スピッツの飼主は約10年にわたり、愛犬の成長を毎日記録しつつ、わが子のように可愛がって育てていた夫婦(自分たちの子供はいない)で、定期的に健康診断も受けさせていたのに、獣医師の治療ミスであまりにも早く「わが子」を亡くした精神的苦痛は非常に大きいと裁判官も認めた。        →全文を見る

(10-4) 【東京高判平20.9.26】  63万円
免疫異常を原因とする脂肪織炎に罹患したminiature Dachshund犬(当時11才、4kg)が、犬猫病院の誤診により不適切な治療のせいで後遺障害が残り、飼主に精神的苦痛、経済的損害を与えたとして、飼主女性が431万円の損害賠償を請求した。  →全文を見る

(10-5)【東京地判平28.6.16】  43万円
ペットのウサギが動物病院で歯の治療を受けた際にアゴの骨を骨折し、その3カ月後に死亡したとして、ウサギの飼主(女性)が東京都品川区の動物病院に損害賠償を求めた裁判で、動物病院に約43万円の損害賠償を命じる判決を下した。    →全文を見る

(10-6) 【名古屋高判平17.5.30  42万円
かかりつけの獣医師で1年以上前から異常を訴えていたのに生検もせず、良性・悪性の判断をせぬまま飼犬(Golden Retriever13才、メス)の左前脚の腫瘍摘出手術をして、犬の死期を早めた(手術後1か月半で死亡)と獣医師夫婦が訴えられた。
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