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トップ>遺言・相続/1.遺言






死亡した人の財産は法定相続の制度により、その財産を作った人(残した人)の意思とは関係なく民法の定める範囲の者にその各法定相続分を分配します。この法定相続分と異なる財産の分配を希望する人、つまり自分の意思を死後にも残したいと望む人は、全てを法律に委ねるのではなく、法定の相続分を遺言者の意思によって変更することが可能になります。

遺言はいずれ故人となる人の自由な最終的意思を確保する為に、一定の方式で表示された個人の意思に死後、それに応じた法的効果を与える法技術と定義されます。単なる頑固おやじの自己主張の延長というのではなく、弱い立場にある家族を守りたいとか、自分の好む人、世話になった人により多くの財産を残してあげたい、家族同士の骨肉の争いを封じたいなど動機は様々であっても、共通しているのは生前の自分が生きていた社会で作り上げた自分なりの秩序を自分の亡き後もできるだけ長く継続させたいという家族・社会に対する想いではないでしょうか。

相続財産に関する権利関係の帰属を、遺言者自身の最終の意思表示に委ねることにより、肉体がこの世に存在しなくなった後にも愛する者への想いが生き続け、遺産が希望通り大切な家族に引き継がれるようにする、これが遺言制度の最大の存在意義と言えます。


しかしながら、自分の死後、100%自分の財産であっても、100%自分の好きなように勝手に財産を処分することができるわけではありません。遺留分など法律の制約があり、これを無視した遺言には法的効力は認められません。遺留分を侵さない限度で法に適合した内容・方式の遺言書にしなければ、せっかく家族の環境を考慮した想いも無駄になってしまいます。

後々の争いを防ぐため、民法は遺言書作成の要件を厳格に定めています。法律に習熟していない一般人が作った自筆の遺言書が単に無効になるだけでなく、それが元で新たな争いが起こることもあり得ます。法的に効力のある遺言をするため、又、相続における無用な問題の発生を避けるためにまずお近くの行政書士に相談されるのがよいでしょう。

臨終の際に駆けつけた親戚縁者に口頭で言い残した言葉とか、死の間際に便箋に走り書きしたメモ、DVDに録画した本人の発言などは、法律上遺言とは認められません。


一軒の自宅のように分割が困難な財産を複数の相続人で分割する場合、相続人間で合意に至らないときはその家を売却して代金を相続分に応じて分割する(換価分割)ことになりますが、自分の建てた自宅は誰に残したいと希望するならその意思を残した方がいいでしょう。
相続人が兄弟の場合で、より多く親の保護を必要とする者とそうでない者、或いは親の面倒をよくみていた者とめったに顔も出さなかった者を法律は区別しません。

一方が親の介護をして他方が一切しなかったという場合は寄与分として介護費用相当額を、介護をした兄弟に優先的に分けることはできますが、その内容を当事者が決めるのは親が決めるほど易しいものではありません。もめる場合は相続人が家庭裁判所に調停の申し立て・審判を求めることになりますが、これがその後の兄弟の永久の不和になる一因となり得ます。
遺言書があればこの兄弟はもう少し仲良く付き合うことができたのにと思うと、遺言書を残さずにこの世を去ることは何と罪作りなことかと感じることになるわけです。特に日ごろから兄弟の仲が悪く相続人間のもめごとが予想される場合には、遺産分割による相続人間の争いを避けるため、適切な遺言を残しておくことは去っていく親の義務でもあります。生前に自分の財産の行方を定めた遺言書を作成することは後々の家族間紛争を防ぐ有効な手段になるのです。
  
(配偶者・子・直系尊属に対して最低限保証された相続の権利)
 相続人  相続財産に対する各相続人の遺留分
 配偶者のみ  1/2
 子のみ   1/2
 配偶者+子  配偶者=1/4、子=1/4
 配偶者+父母  配偶者=1/3、父母(又は祖父母)=1/6
 父母(直系尊属)のみ   1/3(父母又は祖父母)
 配偶者+兄弟姉妹  配偶者=1/2、兄弟姉妹=0(兄弟姉妹に遺留分なし)
 兄弟姉妹のみ   0(兄弟姉妹に遺留分なし、当然、甥・姪にも遺留分なし)

遺留分侵害額を請求する場合において、生前に被相続人から相続人の一部に贈与などがあった場合は、相続人間の公平を図るため、特別受益といって相続発生前10年分について、持ち戻すことになります。(民法§1044Ⅲ)
又、遺留分侵害額は、土地の持分などで渡す(共有)ことは認められず、原則として金銭に換算して支払わなければなりません。




(A) 相続人が配偶者と兄弟姉妹のみの場合(子供も両親もいない)
法定相続で遺産を分配すると配偶者3/4:兄弟姉妹1/4。一方、配偶者の遺留分は1/2で兄弟姉妹には遺留分なし。従い、遺言により「妻にすべての遺産を相続させる」とすることで、配偶者と兄弟姉妹の遺産による争いを防ぐことができますが、遺言書がなければ、生前一切つき合いのなかった兄弟姉妹(又はその子供=甥・姪)にも遺産の一部は分配されることになります。或いは、遺言により、離婚調停中又は長年別居して音信のない配偶者1/2:自分と交流のあった兄弟姉妹1/2として兄弟姉妹を優遇することも可能です。

(B) 内縁関係の夫婦の場合(子供がいなくて親又は兄弟姉妹が法定相続人になるケース)
内縁の妻は戸籍上「他人」ですから相続の権利そのものがありません。内縁の妻との間に子供がいない場合は、法律の規定により全遺産は親又は兄弟姉妹に相続されるので、内縁の妻に遺産を渡すためには遺言が必要になってきます。その場合、法定相続人との不必要な問題を避けるため、遺留分を侵害しない範囲で遺贈する旨の遺言書を作成するよう注意する必要があります。又このような場合、法定相続人との問題が予想されますので遺言執行者を決めておくのが肝要です

(C) 相続人に寄与分がある場合
相続人の一人が主に親の面倒をみたとか介護をしたという場合でも、法定の相続分は変わりませんからより公平な遺産分割のためには寄与分で調整することになります。親亡き後相続人間で皆が納得のいく寄与分の計算ができて全員納得というのは割と稀なケースです。なぜならば相続人それぞれが異なる経済状況・家庭環境の中で生活しているからです。遺産を残す人がご自分の判断で寄与分を勘案して遺産の分割を指示すると、相続人間でさほどもめるという事態には至らなくて済むものです。通常の相続人にとって、家庭裁判所の判断よりも親の指示の方がより重いからにほかなりません。

(D) 家族に病気や障害などで今後の生活が心配な者がいる場合
親が生きていればこれらの家族の面倒をみることができますが、兄弟姉妹だけで弱い立場にある一人の面倒をどうみるか、それぞれが独立した生計を立てているときに、まずは自分の都合を優先するという事態が往々にして発生します。法定相続分で遺産を分割するのではなく自分の作った財産の行方を天の声により指示するのが天国からも家族を想っているよという故人の遺志を伝える最良の方法ではないでしょうか。弱い立場の子供に手をかけてあげることができなくなった後でも、少なくとも経済的な心配を軽減してあげる方法が遺言書を作成することなのです。



(E) 親の介護をした義理の家族がいる場合
息子の嫁が主に親の介護をしたというのが典型例ですが、義理の子供は法定相続人ではないので、遺産をもらう前提にはなっていません。例えば息子が二人いて一人の息子の嫁が主に介護をして他の息子夫婦は遠くにいたのでほとんど親の面倒をみることができなかったという場合でも、遺言がなければ法律は二人の息子を平等に扱います。このような事情を知っている親自身が息子の嫁に対する感謝の気持ちを遺言書に記しておけば自分の亡き後も子たちが納得して仲良く付き合うことができるというものです。

(F) 家業を特定の人に継がせる場合
商売をされている人の家業に関する財産も、もちろん相続財産ですから、それも含めて全ての遺産を法定の相続分で分割してしまうと家業を継ぐ人にとって、商売そのものの継続に支障をきたすこともあります。この場合、家業を継ぐ人に優先して商売の財産を渡すと遺言書においてはっきり意思表示しておかなければ、相続人間で後々もめる原因を作ることになります。

(G) 離婚・再婚などで家族関係が複雑になった人の場合
先妻の子供も後妻の子供も父親にとっては自分の子供ですが、子供同士は常に交流があって何でも話し合える状態にあるとも限りません。全ての遺産が銀行預金であれば分割も単純ですが、不動産・動産・有価証券等が含まれている場合に分割が複雑になってきてもめごとの原因になり得ます。そういうときに、遺言書があれば先妻の子供も後妻の子供も父親の判断に従います。

(H) 身寄りがない人の場合
法定の相続人がいない場合、全財産は国庫に所属します。残した財産はお世話になった国に寄付するという気持ちの人(内閣総理大臣経験者はこうあってほしい)はこれでいいですが、どうせどこかに寄付するなら生まれ故郷の市町村に寄付したい、先祖代々お世話になっている菩提寺に寄付したい、学生時代自分がお世話になった育英資金の財団法人に寄付したい、或いは生前自分が特にお世話になった人に差し上げたいなどの希望があれば、遺言書を作成することにより意思を実現することができます。
遺言書がない場合において、故人の療養看護に努めた人、その他故人と特別の縁故があった人は一定期間内に家庭裁判所に「特別縁故者に対する相続財産分与」の請求をすることによって特別縁故者(民法§958-3)と認定されれば、遺産の一部又は全部を受け取ることもできることになっていますが、できることならお世話になった人が進んで遺言書の中でご自分の意思を表示しておく方が感謝の気持ちが表れてすっきりしているでしょう。



■遺言の三方式
遺言の方式 法律 特徴
自筆証書遺言 民法
§968
遺言者本人が自筆で全文・氏名、日付を書いて押印する。添付書類は自筆である必要はない。
秘密証書遺言 民法
§970
遺言者が自分で作成した署名・押印済みの遺言書を遺言書に用いた同じ印鑑で封印して公証人役場に持ち込み、遺言者・証人・公証人が封紙に署名・押印することで、公証人が真正の遺言書であることを証明するが遺言の内容には関与しない
公正証書遺言 民法
§969
遺言者が公証人の前で遺言の内容を口述し、公証人が遺言書を筆記・作成して原本を公証人役場に保管する最も安全確実な方法
自筆証書遺言保管制度  法務局遺言書保管法  遺言者本人が自筆で全文・氏名、日付を書いて押印した書面を法務局が保管する制度
遺言書が複数あるときは最新の日付のものが優先します

遺言の三方式の比較
自筆証書遺言 長所 ●遺言者一人で簡単にできて、費用もかからない証人がいらないので、遺言の内容及びその事実も秘密にできる
短所 ●遺言書を誰がどこに保管するかが問題。受遺者が預かった場合でも、いざ探すとどこにしまいこんだのか分からなくなったり、他の相続人に隠されたり盗まれ破棄されたりする事故もあり、偽造・詐欺・強迫・未発見の可能性もある
●方式・書き方に不備があると無効になる危険性あり、実効性に問題があり得る(添付資料はパソコン作成でも登記簿謄本の写しなどでも可)
●執行に際しては、家庭裁判所の検認手続が必要(従い、相続手続きに時間がかかる)
秘密証書遺言 長所 ●公証人も証人(立会人)も遺言の内容を見ないので遺言の内容を完全に秘密にできる
●遺言の存在と日付が公証され、争いが起きない(偽造・変造の恐れもない)
●本文はパソコンで作っても他人に代筆してもらっても有効
短所 ●公証人が関与するので手続がやや煩雑になりやすい、公証費用11,000円必要
●公証人役場に原本を保管しないので紛失・隠匿の恐れがある
●遺言内容の作成に公証人が関与しないため、内容・形式不備による無効の危険性あり
●公証人役場において証人二人の立会いを要し、執行に際し裁判所の検認手続も必要
公正証書遺言 長所 ●公証人が作成するので内容が明確、証拠能力が高く、最も安全確実な方法
●原本は公証人役場に保管されるので紛失・隠匿・偽造の心配がない
●家庭裁判所の検認手続が不要(従い、相続手続きが速い)
短所 ●公証人が関与するので作成手続きが煩雑になりやすく、公証費用が結構高い
●証人二人以上の立会いが必要なため、遺言内容が漏れる恐れがある
 自筆証書遺言保管制度 長所 ●自筆証書遺言保管制度 長所 相続開始後はどこの法務局でも保管されている遺言書を受け取ることができる
自筆証書遺言だが、家庭裁判所の検認手続は不要
短所 ●遺言の内容についてはチェックされないので、専門家に事前に確認してもらう必要がある
1件3,900円の手数料がかかる




夫婦一緒に一枚の紙に連名するなど共同遺言は無効とされます。不動産は検認する家庭裁判所が特定できるよう登記簿通りの所在地・面積・構造等をできるだけ詳しく書くか又は登記簿謄本などを添付する、銀行預金は銀行名、口座番号、相続させたい金額を、有価証券の場合も特定できるような事項(株式なら銘柄・株数等)を明記しなければなりません。
表現上の注意点として、「譲る」「渡す」等は無効になることがあるので、相続人に相続させるときは「相続させる」、相続人以外の人に遺産を譲るときは「遺贈する」とした方が無難です。

最後に年月日と氏名を自書しなければなりませんが、「X年Y月吉日」としたり単に「X年Y月」としたりすると判例(大審院判決大正5.6.1)でも無効とされています。たとえ本人が残した日記など他の文書によって遺言書の作成日が特定できても、要件を欠くとして無効と判断されますので注意が必要です。
遺言書は押印をして完成します。認印でも拇印でも認められますが、検認の際に裁判所の心証を良くしようとすればやはり実印を押して印鑑証明書を同封するくらいのことをした方がいいでしょう。(その方が検認の期間が短くて済みます)



全国の公証人役場一覧で具体的に確認できますが各都道府県に法務局管轄の公証人役場が置かれており、大阪府には11か所(大阪市内6、堺市・岸和田市・枚方市・高槻市・東大阪市に各1)あります。
そこへ行って手数料を支払えば公証人に遺言書を作成してもらうことができます。事前にどのような財産があってどのように分けるのか遺言の内容、証人2名を誰に依頼するかなど行政書士と相談しておくと便利です(*証人になれない人も法律に定められています)。

必要書類は、印鑑証明、身元確認の資料、相続人等の戸籍謄本、不動産の登記簿謄本等です。公正証書遺言は3通作成され(原本、正本、謄本)、原本は公証人役場で保管されます。正本・謄本は遺言者だけが保管するケース、遺言者及び相続人(の一人)が保管するケース、又は遺言執行者と遺言者が保管するケースなどがあります。

公正証書遺言の作成にかかる公証人役場の手数料(「公証人手数料令」による)
    『法律行為の目的の価格』=「遺産額」による(不動産価格は「固定遺産評価額」が算定基礎となる)
 1相続人当り遺産額 手数料  相続人3人均等額の場合の手数料総額
 ~100万円 5,000  26,000(5,000 x 3 + 11,000)
 ~200万円 7,000  32,000(7,000 x 3 + 11,000)
 ~500万円 11,000  44,000(11,000 x 3 + 11,000)
 ~1,000万円 17,000  62,000(17,000 x 3 + 11,000)
 ~3,000万円 23,000  80,000(23,000 x 3 + 11,000)
 ~5,000万円 29,000  87,000(29,000 x 3)
 ~1億円 43,000  129,000(43,000 x 3)
 ~1億5,000万円 56,000  168,000(56,000 x 3)
 ~2億円 69,000  207,000(69,000 x 3)
 ~2億5,000万円 82,000  246,000(82,000 x 3)
 ~3億円 95,000  285,000(95,000 x 3)
 ~10億円 249,000  747,000(249,000 x 3)
       遺産総額1億円未満は上記中列手数料の合計+11,000円(遺言手数料)
       3億円超10億円までは5,000万円増える毎に11,000円加算
       10億円超は5,000万円増える毎に8,000円加算
       他に用紙代として約3,000円加算される

(例)遺産総額1億5,000万円の場合の公証人役場の手数料合計(用紙代3,000円含む)
(a) 相続人3人に各1/3相続させる内容なら、手数料合計は上記計算+3,000円=90,000円
(b) 相続人1人に1/2、2人に各1/4相続させる内容なら、手数料合計は104,000円
(c) 相続人1人に100%相続させる内容なら、手数料合計は59,000円
     公証人が病院や自宅に出張した時は規定の日当・旅費が請求されます

上記の例では、手数料×1.5+遺言手数料(11,000円)+日当(4万円)+用紙代+交通費実費となるので公証人役場の費用はそれぞれ次の通りになる(交通費実費を含まず)
(a) 相続人3人に各1/3相続させる内容なら、手数料合計は184,500円
(b) 相続人1人に1/2、2人に各1/4相続させる内容なら、手数料合計は205,500円
(c) 相続人1人に100%相続させる内容なら、手数料合計は138,000円

一度作成した公正証書遺言を取り消す場合は、取消料として遺言手数料11,000円がかかります。

*証人になれない者(民法§974)
● 未成年者
●推定相続人・受遺者及びその配偶者・直系血族
      (利害関係者 ← 真実を自己の有利に歪曲する恐れがある)
●公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人
 


先に作った遺言の後、状況が変わって内容を変更したい、取消したい、撤回したいという場合はいつでも自由にすることができます。
その際遺言の方式が変わっても効力には影響を与えません。例えば公正証書遺言を作った後数年後にそれを自筆証書遺言で取り消すことも可能です。

一番重要なのは日付です。相矛盾する内容については一番後の遺言だけが有効になります。矛盾した内容の遺言が二通ある場合はその内容に関しては後の遺言を有効とし、その他の部分については先の遺言も有効になります。

また、明らかに遺言の内容と矛盾する行為をした場合は、その抵触する内容の範囲で遺言書は取消したとみなされ、その効力は失われます。
特定の不動産をXに相続させると遺言した後、遺言者がYにその不動産を売却したときはいくら遺言書が残っていてもその内容は取消したものとみなされます。

「自分が亡くなったら預金はAに遺贈する」という遺言書を書いた後、数年後に、その預金をBにあげてその後遺言者が亡くなった場合、遺言者の行為(Bに預金をあげること)は遺言の内容と矛盾しているので、抵触する内容の範囲で遺言が取消されたものとみなされ、遺言書でAに預金を遺贈するという部分は取消されたことになります。
遺言書を見つけたAがBに預金を返せと言ってもBは預金をもらった時期が遺言書が効力を生じる前(遺言者死亡前)であることだけを証明すれば返還に応じる必要はありません(遺留分を侵害しない限り)。遺言者の生前の意思が預金はBにあげるということだったと推測されるからです。



自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかっても、家族だからといって、勝手に開封することは法的に許されていません。
民法§1004Ⅰにより「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」とされています。

遺言書に封印がしてあれば、家裁において各相続人立会いのもとで開封します。これは、本人以外の者による遺言内容の改ざんを防ぐためのものです。家裁は遺言者の日記や手紙などの筆跡と、遺言書の筆跡を比較鑑定して、本人が書いた真正の遺言であることを確認するだけで、実質的な遺言内容の真否や正当性・効力の有無等を判定するのではありません。

この検認の手続きには、遺言者と相続人全員の戸籍謄本を添付します。また、相続人以外に遺贈を受ける人がいることが判明した場合は、その人の戸籍謄本か住民票の添付が要求されます。この検認の手続きをしないで勝手に遺言書を開封した場合、たとえ遺言通りに相続・遺産分割を行ったとしても、手続違反として5万円以下の過料に処せられます(民法§1005)。
なお検認の申し立て費用は収入印紙代800円と予納郵便切手代800円の合計1,600円です。



遺言通りに遺言の内容を実現するにつき特に問題がないと思われる場合は相続人が共同で行えばよいのですが、遺言の内容によっては利害関係を有する相続人自身が執行すると公正を欠くということもありますので、遺言の中に第三者に遺言を執行させると指定する制度があります(民法§1006~§1010)。

例えば、推定相続人の一人を遺言者が廃除した(相続させない)場合とか、遺言において認知した子がある場合など、遺言通りに執行するには利害関係を有しない第三者に関与してもらうことが必須です。

遺言書に遺言執行者が指定されていない又はその指定を第三者に委託していない場合においては、利害関係人の請求により家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります(民法§1010)。
遺言執行者はもともと被相続人(遺言者)の法定代理人ですが、実質的には相続人の任意代理人として遺言の執行全般について広範な権限を有しており、遺言執行者に所有権移転登記手続きの権限を認めた判例もあります。(最判平11.12.16)「但し、他の相続人に所有権移転登記を妨害される状態になったときは、遺言執行者は遺言執行の一環として真正な登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続きを求めることもできる」



法律で定められた遺言事項のことを法定遺言事項といい、法的効果が認められますが、これに対して法定遺言事項以外のことを記載したものを付言事項といいます。

「兄弟仲良く助け合って生きていくように」「長男は残された母の介護に努めるように」のように付言事項は何ら法的効果のない内容であり、単なる遺言者の気持ちや希望を記載しただけですので、それ自体には法的拘束力はありません。
しかし「妻に遺産の全部を相続させるのは残された妻の今後の生活を心配してのことであるから、子どもたちは遺留分減殺請求などをしないようにお願いする」という付言事項にあっては、法的拘束力はありませんので子どもからの遺留分の請求を拒むことはできませんが、遺産分割に対する遺言者の最後の要望ですから、その内容が充分に尊重される可能性は非常に大きいといえます。

葬送の方式に関する「私の葬儀・法要のやり方はXXXに従って行うように」「私の遺骨は灰にしてXXXの山中に散骨するように」という遺言も法定遺言事項ではありませんので、法的拘束力のない付言事項ではありますが、遺言書が残されることにより、家族・親類・縁者らの一部に反対や異論を唱える者がいる場合など、遺言者の遺志を貫徹することを容易にすることになるでしょう。



遺言で親の全財産を相続する予定だった長男が親より先に死亡した場合、長男の子が代襲して長男に代わり全財産を相続することにはならないという学説が最高裁判決により確定しました。遺言者の意思は名宛人だけに向けられていると解釈され、遺言の効力発生前に名宛人が死亡した場合は、代襲相続の対象とならず、遺産分割とするのが相当であるということになります。最判平23.2.22は、「長男に全財産を相続させる」と遺言した後長男が死亡、その後親も死亡して相続人である長男の子どもと長女との間で争われた事案において、遺言者死亡の前に全財産を受ける予定だった相続人が死亡した場合は、「遺言中で代襲相続を指示している等の特段の事情がない限り、遺言に効力は生じない」として、長男の子と長女に法定相続分各1/2で遺産を分割するよう判決を下しました。遺言者が「特定の相続人に財産を相続させる」と言った場合は、「その相続人に遺産を取得させる意思がある」というだけであり、代襲して長男の子に相続させるということにならないと判断した。長男死亡の場合その子に代襲させたいのであれば、遺言書において「全財産を長男又は代襲相続人に相続させる」と明確に記載しなければならないことになります。



認知症高齢者の遺言について、最近、公証人(主に元裁判官)が関与・作成する公正証書遺言までも無効とされる判例が出てきています。認知症にもいろんな段階があり、日常的な会話ができる人もいて、遺言能力の見極めが難しいという事情があるからです。認知症の簡単な検査として「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」が使われ、大まかに軽度・中等度・高度と分類されます。


民法は、満15歳(§961)であれば遺言をすることができるとし、成年被後見人等の行為能力制限者にも遺言能力あり(§962)として、単に、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」(§963)と定めているだけなので、具体的にどの程度の能力があれば「遺言能力」があるのかについては規定がありません。成年後見等の審判を受けていない認知症高齢者が公正証書遺言を希望する場合は、遺言能力の判断に医師の診断書が法的に要求されていないので、遺言能力の判断は実質的に公証人に任されているとも言えます。
その公証実務においては、事理弁識能力=小学校低学年児程度の知能で足りるとする意思能力概念に関する理解があるようですが、そのような本人が複雑な遺言の内容を真に理解していたかが裁判で争われるのです。遺言時の医師の診断書がない場合は、遺言をした時期前後の生活・介護記録から判断せざるを得ませんが、たとえばアルツハイマー型認知症で中等度を超えるものは裁判で無効と判断されることがあります。


一方で、成年被後見人については「事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立ち会い」を条件として、「遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない」(§973)と法定されており、遺言時の遺言者の判断能力についての医師の判断があるからこのような問題は起こりません。
なお、後見計算終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となる遺言をした時は、その後見人が被後見人の推定相続人(直系血族、配偶者又は兄弟姉妹)以外の者である時は無効(§966)と規定されており、認知症高齢者の財産が、遺言という形式により、安易に後見人関係者に移転しないようになっています。(従い、認知症高齢者は成年後見制度を利用すべきという結論になる)


成年後見制度を利用していない認知症高齢者の公正証書遺言の有効性が争点となった裁判例

(ア)東京高判平25.8.28
Xは,2010年8月死亡(死亡時66才)。Xは,Xの唯一の法定相続人であるXの子Aがいるにもかかわらず、Xが死亡する6日前に、XはAの従姉妹B・C及びBの子Dに対し,財産を遺贈する内容の公正証書遺言を作成した。本件遺言書は、Xが末期ガンによる死亡直前に作成されたとして、遺言能力の欠如等により無効であるとして,Xの子Aが、本件遺言書の無効確認を求めた事案。
判決によれば、Xは,進行癌による疼痛緩和のため,2010年7月末に入院した後は,薬剤の影響と思われる傾眠傾向や精神症状が頻繁に見られるようになっており、本件公正証書遺言作成時も,公証人の問いかけ等に受動的に反応するだけで,公証人の案文読み上げ中に目を閉じてしまったり,自分の年齢を間違えて言ったり,不動産を誰に与えるかについて答えられないなど,事理弁識能力が欠如していたことが認められたことにより,Xには当時遺言能力はなかったと判示した。従い、本件公正証書遺言は無効と確定した。(本来ならば、公証人の段階で、このような遺言書を止めるべきであった)

(イ)東京高判平25.3.6
元医師であったXは,1980年4月付で,全財産を妻Yに相続させる旨の自筆証書遺言を残していが,その後,妻Yが存命中である2007年3月2日「Xの全財産を妹Aに相続させ,Aを祭祀承継者及び遺言執行者とする」という内容の公正証書遺言を作成して、2007年8月27日に死亡した(82才)。妻Yは、同2007年4月21日、一足先に死亡(79才)。X・Y夫婦に子はなく、Xの法定相続人は,弟B・C及び妹A・Dの4人。(弟Cは,その後2008年1月22日に死亡したため、Cの妻C1が実際の相続人)
妹Aは,兄弟姉妹B・C1・Dに対し,公正証書遺言が有効であることの確認を求める訴訟を提起した。これに対し,B・C1・Dは,本件遺言当時,Xが重度のうつ病,認知症であり,2007年2月22日以降,高熱を出して不穏行動を繰り返し,重篤な肺炎に罹患し危機的状況にあったから,遺言能力はなく,妻Yの生存中に妹であるAに全財産を相続させるとの遺言をするはずがないと説明、遺言の無効を主張した。
判決では,Xの経歴,生活状況,病院での入院中の様子,妻Yの状況,Xの介護老人保健施設入所中の様子などにつき詳細に事実認定したうえで,Xは本件遺言時に遺言事項を具体的に決定し,その法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力を備えておらず,遺言能力があったとはいえないので,本件遺言は有効とは認められないと判示して,遺言の無効が確認された。

(ウ)東京高判平22.7.15
遺言時87才の認知症の女性Xが残した公正証書遺言において、Xは長年同居していた養子ABの居住不動産を含む全財産をXの妹Cに遺贈した。骨折により入院し退院後も介護老人保健施設で暮らしている間に遺言を残したXは2年後89才で亡くなったが、居住不動産をC名義に変更され遺産もすべてとられたA・BがCを相手に、遺言無効確認と遺言に基づいてなされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟を起こした。
Cから公正証書遺言作成手続の依頼を受けた司法書士Yに対し、Xは「ABから虐待を受けているので財産をやらない、Cにあげたい」と言っていたことは、認知症による被害妄想の表れとみることができると裁判所が判断、Xが遺言時、進行中の認知症(遺言前=軽度から遺言後=高度)であったと認定し、当該公正証書遺言を無効とした。Yが遺言書原案を作成し、公証人がXに読みきかせて作成した公正証書遺言だが、裁判官は遺言内容の不自然さも考慮し、Xは遺言作成当時認知症が進行し遺言能力を欠いていたとした。
Yは同僚司法書士と2名で遺言時の証人にもなっており、司法書士立会いのもと作成された公正証書遺言無効判決は、依頼人が認知症高齢者の場合、医師の診断書を取り寄せるとか、介護施設職員の意見を聴取するなどして認知症の程度を客観的に把握しておくことが、遺言の内容以上に重要であることを示唆している。

(エ)東京高判平21.8.6
父✕(1913年生,2005年5月に91才で死亡)は、子Aに全財産を相続させる内容の自筆証書遺言(遺言時87才)を2001年3月1日付けで作成していた。✕の子であるBらが、Aに対し,本件遺言が無効であるとして,その無効確認を求めた事案。裁判では,✕が入通院していた病院・診療所の診療録,デイサービス記録等に基づき,老人医療の専門医による✕の遺言能力についての鑑定が行われ,鑑定人は,✕は1996年頃に発病したと思われるアルツハイマー病があり,1997年9月30日に生じた左脳脳梗塞の合併で認知症が重症化し,1998年以降も認知症は徐々に進行し,2000年6月頃までには、やや高度の認知症状態(HDS-R=高度)に至り,2001年以降も進行があり,2003年以降衰弱が目立ち,2005年5月15日に心不全・呼吸不全で死亡したもので,1998年から2003年までの間に認知症は改善の兆しがなく、次第に重くなる経過をたどったものであり,✕は本件遺言書を作成したとされる2001年3月当時には、アルツハイマー病と脳梗塞の合併した混合型認知症に罹患しており,やや重い認知症状態にあったもので,自らの意思で遺言を思い立ち,遺言内容を考えて遺言をするという能力に欠けていたと判断し、本件遺言書は無効であると判示した。

(オ)大阪高判平19.4.26
遺言時91才の認知症の男性Xが残した公正証書遺言において、Xは多数の不動産・預貯金を先妻・後妻の子複数に相続させるとしたが、相続人間の受益のばらつきが大きく、遺言を主導した相続人の一人が他の相続人より公正証書遺言無効の訴えを起こされた。酸素吸入をしていたXが遺言を残した一週間後には危篤になり間もなく亡くなったので、裁判ではXに遺言能力がなかったと認定した。
遺言書の内容が複雑(実体は信託銀行が原案を作成したことが判明)であるにも拘らず、遺言時の認知症の状況等からXが容易に理解し判断することができるものではないと結論付けた。遺言能力とは小学校低学年児程度の知能で足りるとする公証役場の常識が裁判で覆された事案といる。


(カ)横浜地判平18.9.15
85才のアルツハイマー型認知症の女性Xは、亡夫の遺言書と異なる遺産分割協議を行ったため、信託銀行の勧めで信託銀行の主導のもとに公正証書遺言を残し、その5年後に90才で死亡した。相続が発生してから相続人間で紛争が発生、公正証書遺言の効力が裁判で争われた。証人となる信託銀行員2人に連れて来られた公証役場において、公証人は遺言書案を順次読み上げ、それぞれについて、その相続させる者でよいかとXに尋ね、Xは「はい」「そのとおりで結構です」と簡単な返事をしたというが、遺言時XはHDS-R=中等度から高度であり、裁判官は、Xは遺言書の内容を理解する能力を欠いていたと判断し、当該公正証書遺言を無効をとした。
遺言は有利な内容を記載させた相続人と信託銀行が主導したと認定され、その内容が多数の不動産等を複数の相続人に相続させ、しかも一部は共有にしたり遺言執行者を分けて指定する等、かなり複雑なものであったので、到底Xにこれを理解して判断する遺言能力があったとは認められないと判断された。


(キ)東京地判平18.7.4
遺言時90才の重度アルツハイマー型認知症の男性Xが残した公正証書遺言において、Xは一部を除き全財産を相続人Aに相続させるとしたが、4年後Xの死亡後、不利な扱いを受けた相続人Bから当該公正証書遺言無効裁判が起こされた。裁判では、自分に有利な遺言をさせたAが主導した遺言であると認定され、当時のXは重度の認知症であり、単純な内容の遺言ですら本人は理解していなかったと判断された。
公証人は、Xの意思を確認して公正証書遺言を作成したというが、Xが認知症であることを告げられておらず、遺言能力を十分確認していなかったとして当該遺言は無効とされた。Xが遺言を承諾した時のAの供述や遺言時の証人の供述は、Xの当時の介護記録の生活状況との整合性がないという点も公正証書遺言の効力を否定する要因になった。



これらの裁判例によれば、遺言能力を、遺言内容の複雑性・難易度、遺言の作成経緯、遺言内容が遺言者の諸関係から自然なものであったか、当事者の関係等を総合的に考慮することにより、遺言者の真意に基づくものか、遺言者の能力低下に乗じた周囲の不当な干渉がなかったか等の検討をして総合的に判断しているようです。認知症高齢者の遺言能力は判断能力の程度(アルツハイマー型認知症でHDS-R=高度の高齢者は判断能力なしとみなされる)と、遺言の内容との関係で相対的にとらえられます。

相続人(受益者)等に遺言書作成を主導した者がいる場合は、遺言者が周囲の影響から独立して自由に作成し得る状況にあるかも、専門的職業にあり遺言書作成に関わる者は遺言の作成経緯として記録しておくべきです。少なくとも、医師の診断書の取り付けくらいは必要だと思われます。遺言を残すということは法定相続と異なる遺産の配分を望むということですから、将来相続人間で紛争が生じる可能性があるわけで、その点に関して遺言者が合理的な説明をできるか充分な聴き取り調査をすべきなのです。


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