大阪・岸和田のアミ・インターナショナル 行政書士事務所                                  クーリング・オフ、国際法務、ペット法務はお任せ下さい。
  
  
(2A)ペットによる咬傷事故判例


(2A-1)
【福岡地判平28.1.12】 2,150万円
北九州市小倉南区の住宅街で、飼主宅の室内で飼われていた超大型犬(Bernese Mountain Dog)が,飼主の留守中に逃げ出し、自宅の駐車場で車から荷物を下ろしていた60代女性に飛びかかって手や腕、腹などに咬みつき、女性は指を骨折するなど重傷を負い、後遺症が残った。被害女性が飼主らに治療費や慰謝料などの損害賠償2,150万円を求めた訴訟で、被告飼主らは口頭弁論に出席せず、答弁書も提出しなかったため、擬制自白を適用して、請求通りの支払いを命じる判決が出た。


(2A-2) 【東京高判平25.10.10】 1,725万円
平成23.5.21東京の高級マンション内で反町隆史・松嶋菜々子夫婦(俳優・女優)の飼っている大型犬(Doberman)を当時6才の同夫婦の子が散歩に連れ出そうとしたところ、同じマンションの敷地内で、住人母子めがけて犬が勝手に走り出し、4才の子に向かってきたので、母親が子をかばうため間に入ったところ、大腿部を咬まれ、救急車で病院に運び込まれたという事件が発生した。犬に咬まれた女性は、右大腿表皮剥離の傷害を負い、11日で5回通院するはめになり、その後、俳優夫婦とは、病院代+慰謝料を払うことで示談が成立した(31万円)。しかし、この住人(有名デザイナー家族)は恐怖感からこのマンションに住めなくなり、1か月以内に転居したので、マンションを貸していた管理会社が、俳優夫婦に損害賠償を請求した。契約はあと27か月あったので、一審では5,000万円(200u以上、家賃月額175万円)請求したが、東京高判平25.10.10は、次の入居者を見つけるまでの合理的な期間を9か月とみなし、弁護士費用の一部も含めて1,725万円の支払いを命じた。実際、次の入居者が決まるまでこの家は17か月間空き家であった。

このマンションの管理規約には「部屋で飼える小動物」以外のペットは飼育禁止となっていたから、俳優夫婦は管理規約にも住人の安全を守るべき注意義務にも違反していた。運悪く4才の子が体重40kgの犬に襲われていたら、命を落としていたかもしれず、大腿部を咬まれた女性がカバンで犬をたたくなどしても、犬は咬みついたまま離れようとせず、騒ぎをきいて駆けつけた俳優夫婦の家政婦がようやく引き離したという。

入居者を失い、家賃収入を失ったマンションの管理会社が俳優夫婦を訴えた裁判で、咬傷事件の直接的被害者ではない第三者が、間接損害の賠償を請求できるかが争われた。俳優夫婦は、犬が咬みついたことと、住人による賃貸契約の解除には予見可能性がなく、自分たちは、咬傷事件の加害者ではあるが、不動産管理会社の賃料債権を侵害する故意も過失もなかったと責任を否定した。しかし、裁判所は、賃料債権の喪失を逸失利益とみなし、飼犬を適切に管理しなかった、動物の占有者たる俳優夫婦の負担すべき性質のものであるとして、その責任は間接損害にも及ぶと判断した。


(2A-3) 【名古屋地判平14.9.11】 799万円
平成11年12月、市内の路上を散歩中の男性(当時49才)に、突然背後から飼い犬が襲い掛かり、ふくらはぎを咬みつかれた。男性は、左膝内障傷害と診断され、更に、咬まれた直後に当該犬が狂犬病の予防注射をしていなかったことを知り、狂犬病発症におびえてPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した。男性はロンドン大学の博士号をもつ高学歴で、コンピュータ技師として月額130万円の収入を得ていたが、強度のパニック症状により情緒不安定となり、就業できない状態になった。
この犬は、飼主の敷地内で放し飼いにされていたが、外に出ないように立てかけていたトタン板がなぜか外れて、犬が通り抜ける隙間ができていたため、犬が自由に路上に出ることができる状態だった。
飼主は夫婦とその長男の3人、3人ともこの犬の占有者として訴えられたが、飼主は妻一人であり、夫と長男は占有者でもなく責任もないと主張した。裁判官は3人を共同占有者と認定、登録名義人は長男だが、犬の占有・管理は家族全員であり、3人とも責任を負うとした。男性はこの事故で被った損害は2,758万円になると、この金額を請求したが、裁判官は、男性の慰謝料、逸失利益などの損害賠償合計を799万円と計算し、夫婦と長男共同でこの金額を支払うことになった。(飼主は10万円の見舞金を先に支払っているので、判決の金額は789万円)


(2A-4)【東京地判平28.1.19】 724万円
ガソリン給油所経営者が飼い犬(柴犬)を事務所入口の支柱に長さ160cmの鎖につないでいたところ、従業員の一人が突然右手を咬まれ、中指切断の重傷を負った。飼主は給油所の会社の社長であり、そんな場所に犬をつなぎ止める方法では、飼い犬による危害の防止策として不充分、給油所の安全性にも問題があるとして、動物占有者の責任(民法§718)のほか、会社の代表者としての責任(会社法§350)も認められた。この犬は過去にも利用客の受傷事故を起こしていて、人に危害を加えるだろうことは予見可能だったと飼主の責任が認められた一方、咬まれた従業員も犬の危険性をある程度知っていたはずなのに、ペットボトルを取り上げようと手を伸ばした瞬間に突然咬みつかれたというから、被害者の過失3割と認定された。(飼主は被害者の過失7割5分と主張)

結局、裁判で、被害者従業員の損害額は983万円+弁護士費用と認定された。主な項目は、休業損害183万円、後遺障害逸失利益400万円、通院慰謝料110万円、後遺障害慰謝料290万円など。ここから3割の過失割合を差し引き724万円が被害者に支払われる金額となるが、勤務中の事故につき被害者には合計273万円労災が既におりていて、飼主・社長が先に支払った見舞金5万円及び他に会社からこの従業員に対する貸付金46万円があったので、既払い金合計324万円を差し引いて、判決額は約400万円となった。


(2A-5) 【大阪地判昭61.10.31】 230万円
大阪府池田市で男性が大型犬(秋田犬、体重35kg)を鎖につないで散歩させていた時、近づいて来た顔見知りの女性(28才)が犬に手を出したので、飼主は「怖くないですよ」と答え、自らその女性に犬を連れて近づいたところ、急に犬が女性に飛び掛り顔に咬みつき、鼻尖部挫滅創の大怪我を負わせた。鼻を咬まれた女性は本件事故後2年にわたって入院5回(合計入院日数48日)、通院22回の入院・通院を余儀なくされ、総額1055万円(内130万円は内金として入金済)の損害賠償を請求した。被害者に本件事故を誘発せしめたと認められる行為はなく、飼主の主張する過失相殺は適用されなかった。裁判所は、飼主としての注意義務違反による、飼主責任を認め、治療費・通院中慰謝料・後遺症慰謝料・弁護士費用などをあわせ、230万円の損害賠償を命じた。(但し、内130万円は支払済)なお、女性の傷害は幸にも計4回にわたる形成手術によりかなり好転し、特殊化粧品を使って日常生活上は通常人とほぼ遜色のない程度に回復しているものの、素顔においては、その痕跡を残し、今後の形成手術によっても、これ以上の改善は期待できないと判断された。


(2A-6)【東京地判平14.6.27】 208万円
飼主が都内の路上で、秋田犬(体重27kg)を手綱につないで散歩させていたところ、近所の知人女性(当時52才)が歩行中、すれ違いざまに飼主に挨拶、「メイ(犬の名)ちゃん、今晩は」と飼犬にも挨拶した途端、この犬が女性の顔面に咬みついて、女性は顔面裂傷等の傷害を負った。手綱は70cm位だったが、この未婚の女性は、自賠責後遺障害等級表第12級14号(外貌に醜状を残すもの)に相当する後遺症が残り、16か月に及ぶ通院を余儀なくされた。飼主は犬に近寄った女性の過失と主張したが、裁判官は、飼主が犬が咬みつかないよう手綱を短く持つなり強く持つなりして事故を防止する義務があったと認め、相当の注意をもって犬を保管していたとは言えないと判断した。飼主は、女性が飼犬にちょっかいをかけたのが原因で、いわば自招行為と主張するも、裁判官は、女性は犬に対する挑発行為も加害行為もしていないから自招行為による免責には該当しないと飼主の主張を退けた。但し、この秋田犬と女性の飼犬は以前から仲が悪く、本件事故が発生した時は、女性は自分の犬は連れていなかったが、そのような事情がある場合に、あえて秋田犬に近づいたことに過失があるとして、被害者に3割の過失があると認定し、298万円と算定した女性の被害額から過失割合を差し引き、208万円の支払いを命じた。(一部の病院の治療代と交通費は別途飼主が先に支払済)。


(2A-7)【名古屋高判平15.9.4】 204.5万円
愛知県で開催された犬のマラソン大会会場の公園で、見物に来た愛犬家が、同じ愛犬家の飼育する大型犬(Bernese Mountain dog)に右手を咬まれて傷害を負った事故につき,裁判官は犬の飼主の不法行為を認定し、損害賠償を命じた。飼主は、咬み癖のある犬に口輪もせず、2m近いリードに繋いで直径4mの範囲で行動できる自由を与えていた過失があり、一方の被害者は当日、多量のフランスパンを携行して、知り合いの人達へあいさつ代わりに配って歩いていたが、愛犬家として犬の興味を惹きやすい行動を取っていることの自覚が足りなかったとして、被害者に2割の過失を認めた。飼主は、相当な注意をもって犬を保管していたので、民法§718T但書の免責を主張していたが認められず、裁判官は、被害者の負傷中の逸失利益などから2割の過失相殺をして、約204.6万円の支払いを命じた。


(2A-8) 【大阪地判平30.3.28】 200万円
大阪府茨木市で、飼犬と散歩中の女性(40代)が、リードにつながれていない大型犬(体重23kg)に飛びかかられ,腕や背中,尻などを咬まれて2週間のけがを負った。女性には11か所の傷痕が残ったほか,3日後に予定されていた就職の面接にも出席できなかった。裁判官は,大型犬が現場近くの飼主宅から走り寄ってきたとし、「飼主がリードをつけるという基本的な注意を怠った」と指摘、「強い恐怖心を伴い,傷痕を除去する治療も必要」であるから、飼主に、慰謝料80万円のほか、治療費など合計約200万円の支払いを命じた。


(2A-9) 【福岡地判平17.7.8】 175万円
男性が、隣家の飼犬が吠えるのを止めさせようと、開いていた門扉から隣家に侵入したところ、隣家の飼犬に脚を咬まれ、1ヵ月入院の大怪我を負った。その男性は犬の飼主に対し、約530万円の損害賠償を請求した。裁判官は、被害者の損失を290万円と認めるとともに、門扉を閉めずに犬小屋の鍵を開けた飼主の管理義務違反を認めたが、一方、男性も当初は犬の吠えるのを止めさせるために犬にパチンコ玉を当てる目的で侵入し、犬小屋に近づいた点や、以前も犬に銀玉鉄砲を撃ったり、棒で突いたりしていたことを認定し、4割の減額とし、飼主に対し約175万円の支払いを命じた。


(2A-10) 【福岡地判平16.9.21】 150万円
夜、福岡県那珂川町の歩道を男性が綱をつけて秋田犬を散歩させていたところ、歩道を自転車で走行中の女性のズボンの裾に犬が咬みつき、その弾みで自転車が転倒、その上、女性は背中や腕に咬傷を負い、1週間入院した。そのショックでめまいや嘔吐など、恐怖心による急性ストレス障害に陥ったため、裁判で、犬の飼主に対し、約310万円の損害賠償を請求した。飼主側は、「犬は非常に温和であり、女性が道路交通法に違反して歩道を自転車で走行したことが事故の原因であるから、飼主には責任はない」と自己の責任を否定したが、裁判官は、「飼主は犬の前方を歩いていたため、事故に気づくのが遅れたのであって、相当の注意を払ったとは認められない」として、犬の飼主の保管注意義務違反を認め、約150万円の支払を言い渡した。また、女性が歩道を自転車で走行したこと(道路交通法違反)と本件咬傷事故とは法的に因果関係はないと、飼主の責任逃れを認めなかった。


(2A-11) 【東京地判平27.12.25】 126.4万円
株式会社が運営するpet shopの店長が、自己の飼育する犬4頭を毎日のように店の事務所内に連れてきて放し飼いしていたところ、事務所にファイルを取りに入った女性従業員(アルバイト店員)が1頭(中型犬、Australian cattle dog)に腕を咬まれ負傷した。店長の犬は過去にも他の従業員を咬んだことがあり、当日、本件事故の後も別の従業員の太ももを咬む事故も起こしていた。店長は本件事故後も1カ月にわたって4頭の犬を事務所に連れてきて放し飼いしていたため、被害に遭った従業員が退職後、犬の飼主である店長とpet shopを運営する会社に対し、不法行為とパワハラに対する損害賠償落として246万円を請求した事案。

会社側は、店長が個人的に連れてきた犬が起こした事故であり会社と無関係と居直ったが、この店長は関東地区責任者でもあり、事業執行上の行為とみなされ、会社も連帯責任となった。自分の可愛い犬に咬まれるなんてしょうもない店員だと思っていた店長が、強烈に女性従業員を叱責したパワハラでも訴えられ、裁判では社会通念上許容される指導又は叱責の範囲を明らかに超えていたとして、店長と株式会社に対する損害賠償を認めた。(会社はパワハラ防止マニュアルを作成していなかった)

女性店員の損害については、咬傷事故による損害93.4万円(3か月の通院慰謝料73万円を含む)及びパワハラに対する損害33万円の合計126.4万円を店長と株式会社で連帯して弁償せよと命令された。(治療費4.7万円が労災から先に支給されていたので、判決は121.7万円)


(2A-12) 【東京地判平26.1.10】 115万円
東京メトロ千川駅近くのビデオレンタル店に立ち寄った際、付近の歩道上に飼犬(大型犬Siberian Husky、体重25kg)を15分くらい長さ80〜90cmのリードでつないで残していた間に、この犬が、同じ店に向かっていた小型犬(Boston terrier)の頭とその飼主の手を咬み、飼主は10針を縫う咬創を負った。被害者は小型犬を腕に抱えながら歩いていたところ、店前の歩道上に少女がおり,犬を見たがっていたので、しゃがんだところ,いきなりつないであった中型犬に小型犬の頭部と飼主の左手を咬まれた。被害者は加害飼主に対し動物占有者の責任(民法§718)を追求、200万円の損害賠償を求めた。

判決によれば、地下鉄駅出口すぐ近くで、しかも午後7時と人通りの多い時間帯に、体長80cm、体重25kgの犬を15分間残して離れることは、民法§718T但書の定める「相当の注意をもってその管理をした」と認められないとして、中型犬の責任を認めるとともに、うかつにも被害者も犬を連れて他の犬の近くに向かう場合、相手の犬の動静やその管理の状況について相応の注意を払うべきであったと被害者の過失を3割と認定した。慰謝料50万円、通院期間中の休業補償96万円など被害者の損害+弁護士費用を160万円と認定したが、過失3割を差し引き、加害者側は115万円を支払うべきとした。(但し、治療費など3万円は既払いにつき、判決の金額は112万円)


(2A-13) 【京都地判平14.1.11】 74万円
大同生命保険会社に勤務する保険外交員の女性が、訪問した会社で飼っていた中型犬(約1mの鎖で繋がれていたShepherd系雑種)に腕を咬まれ、訳5か月の通院(実数は22日)を要する傷害を負った。治療が終わった後もしびれ・醜状瘢痕などの後遺障害が残ったため、女性は飼主である会社社長に、約439万円の損害賠償請求を行った。この犬は、過去少なくとも2回人に咬みついたことがあり、気の荒い性格であったが、頻繁に仕事でこの会社を訪れる必要があるため、女性は犬を慣らす必要があると考え、わざと犬に近づいて、「お手」などをさせていた。そうこうしている間に、おとなしそうにしていた犬が突然保険外交員の腕に咬みつい手事故が発生した。飼主は、犬は繋いであり、毎日散歩にも連れ出しているので飼い主の責任はないと主張したが、裁判官は、
過去2度咬みつき経歴のある犬であれば、人が不用意に近づくことがないように張り紙などをして注意を喚起する等の配慮をすべきであったと、飼主の免責を否定した。但し、女性にも安易に犬に触り咬みつかれた過失があるとし、その過失割合を6割とした。裁判で認められた女性の損害は226万円、過失相殺後、この4割、90万円を飼主社長が負担すべきとした。但し、労災保険とか飼主が先に支払った見舞金などを差し引き、判決は74万円の支払いを命じた。


(2A-14) 【東京地判平29.1.20】 55.4万円
柴犬を長さ1.42mのリードをつけて公道を散歩させていた男とすれ違った女性めがけて飼犬が襲いかかり、右足大腿部部分に激しく咬みつき,通院加療約44日間の咬傷を負わせ、その上スカートをはけない程度の醜状痕が残っているとして、飼主に170.5万円の損害賠償を請求した事案。女性は教員採用試験会場を下見のため一人で歩いていた時に、前方から犬を連れた男が歩道側を通って来るのを見て車道側によけて歩いたところ、男と30pほどの距離のところですれ違った際に犬に襲われた。男は苗字と携帯電話番号を残して立ち去ったが、苗字も電話番号も虚偽であることが判明、応急処置をしてくれた交番で加害者の電話番号を調べてもらい、連絡したところ、間もなく、加害者の男が手土産を持って被害者の自宅を訪問、被害弁償の意思表示として、事故当日発生した2,000円の治療費を払って立ち去った。その後、被害者が怪我の程度がひどく後遺障害が残っていると伝えると自分の犬は咬んでいないと居直るので、女性は裁判に訴えた。裁判官は通院慰謝料など55.5万円の支払いを男に命じた。この犬は人を咬む習性があるようで、男のfacebookには「弊社で2人咬まれてます。現在傷害罪執行猶予中」という投稿があった。


(2A-15) 【広島高判平15.10.24】 50万円
小学校5年生の女子が他人の家につながれている飼犬に口部を咬まれて傷害(12日の通院)を負い、後遺障害が残ったとして、当該女子とその両親が,飼主に対し、慰謝料等の損害賠償を請求した。飼主は、公道から自由に出入りできる自宅車庫に犬をつないでおり、「犬にさわらないで」という看板を設置していた。飼主は自分の犬が女子を咬んだことを認めず、仮に咬んだとしても、相当な注意をもって飼犬の保管をしていたから責任はないと主張。仮に飼犬の保管につき不注意があったとしても、女子にも過失が認められるので、過失相殺がなされるべきだなどと主張した。裁判所は、飼犬が女子を咬んだと認定した上、飼主側の相当な注意をもって飼犬の保管をしていたとの主張を認めず、女子に対する損害賠償責任を認めた。その上で,女子にも事故を誘発した過失が認められるとして5割の過失相殺をした。最終的に、女子の損害として傷害慰謝料20万円のほか、後遺障害慰謝料30万円(60万円の損害額に5割の過失相殺を適用)などの支払いを命じた。


(2A-16) 【最判昭37.2.12】 34.4万円
大型犬Great Dane(グレートデーン)2頭(体重45kg及び56kg)を同時に住宅街で散歩に連れ出していた小柄な男(身長160cm、体重49kg)が、その力に負けて犬を制御できず、2頭の犬が9才の女児に飛びついて咬みつき重傷を負わせた事件で、大型犬の世話係として男を雇っていた飼主が訴えられた。合計36針を縫い、入院1カ月半となった女児側は慰謝料100万円を請求する裁判を起こした。飼主に雇われていた男は獣医ではあったが、自分より大きな犬を2頭も同時に散歩さすのは常軌を逸しているとして裁判では飼主の注意義務違反を認め、治療費等全額4.4万円に加えて慰謝料30万円の支払いを命じた。


(2A-17) 【東京地判平30.2.2】 29.4万円
SNSで知り合ったPomeranian(体重3kg)の飼主とLeonberger(体重50kg)の飼主が、それぞれ犬を連れて横浜の飲食店で会い、お互いの犬を紹介しようとしたところ、両方の犬がうなりだし、突然大型犬が小型犬を口にくわえてしまい、小型犬が右腕部咬傷の重傷を負った。被害を受けた小型犬の飼主が大型犬の飼主に対し慰謝料・逸失利益など合計442万円を請求した事件で、裁判官は大型犬の飼主の監督責任を認め、治療費及び慰謝料10万円など損害額は29.4万円と裁定した。このうち19.4万円は治療費として既にもらっていたので、裁判で支払いを命じられた金額は10万円のみ。SNSでLeonbergerにうちのPomeranianを会わせたいと言ってきたのは被害犬の飼主であり、そんな小さな犬を大型犬に会わせたいと近くに連れてきた方の自招行為だから、大型犬側に過失はないと主張、うちの犬が本気で咬むとPomeranianは即死だ、単に歯が当たっただけの偶然の事故であると反論した。一方の咬まれた方の犬の飼主は会社の社長で、犬を治療に連れて行くためセミナーを中止せざるを得なくなったので、その逸失利益104万円も負担せよと要求したが、これは裁判官に認められなかった。


(2A-18)【東京地判平4.1.24】 23.4万円
明治神宮外苑内において、女性が飼犬(柴犬4才、雄、体重約13.5kg)を鎖でつないで連れて散歩中、放し飼いで遊ばせていた犬(雑種、雄、女性の飼犬とほぼ同程度の体重)が駆け寄って女性の犬に襲いかかったので、女性が飼犬を抱き上げたが、その際、犬が女性の右前腕部に咬みつき、約1か月の治療を要する咬傷を負わせた事件。被害女性は1か月に17回通院、女性の右前腕部の手首から約4cmの箇所に、長さ3.3cmの傷痕があり、この傷痕は将来にわたって消えないと主張、後遺障害も含め、296万円の損害賠償を請求して提訴した。一方の放して遊ばせていた犬の飼主は、自分の犬が咬んだ証拠がないと責任を否定、喧嘩争闘中の犬の間に腕を出すときは、犬はその腕を闘争相手と誤解して攻撃する習性があるから、犬を蹴る等の方法によるべきであったとして、腕を出した女性に過失があると主張した。裁判官は、女性に咬傷を負わせた犬が特定できない場合であっても、公共の場で犬を放し飼いにしていた飼主にすべての過失があると判示して、女性の慰謝料15万円に加え、治療費実費及び弁護士費用の一部に相当する合計23.4万円の支払いを命じた。但し、女子の外貌に醜状を残す後遺障害は認めなかった。


(2A-19) 【大阪地判昭41.11.21】 19.6万円
電気工事業者(当時61才男性)が、タオル印刷業者に依頼されてその敷地内で工事をするためはしごを取りに行ったところ、鎖に繋留されていたShepherd犬(6才雄、体長165cm)に突然右下腹を咬みつかれ、腸壁の動脈破裂、その後3週間入院、46日間通院する羽目になった。この犬は過去にも近隣の人に咬みついたことがあり、飼主は犬に口輪をはめるとか、予め工事人に猛犬であることを告げるなどの義務を果たすべきであったところ、義務違反が認められた。一方の工事人は、このような大型犬は警戒心が強く危険性の多いことを認識すべきであったとして、裁判所は、飼主の過失70%、工事人の過失30%と判断した。被害者が41.2万円を請求したのに対し、裁判所は、休業期間一日2,000円 x 69日=138,000円を逸失利益と認定し、この70% = 96,600円 + 慰謝料10万円、合計196,600円の支払いを命じた。


(2A-20) 【名古屋高判昭32.5.10】 15万円
昭和23年、当時3才10ケ月の女児が友人3人と近所の菓子雑貨店にお菓子を買いに行ったところ、金属の鎖で繋留されていたアイヌ犬が突然女児に襲いかかり、女児を押し倒して顔面・頭などに咬みついた。当時店の者は留守で不在、被害者側は100万円の肉体的及び精神的苦痛に対する慰謝料を請求した。この犬は過去にも何度か人に咬みついて怪我をさせた狂暴性のある犬であり、小売店という不特定多数の来客の予見される場所においては、飼主は犬が他人に危害を加えることのないように万全の措置を講じて保管すべき注意義務を負担するのであり、女児の過失行為責任は評価の対象とならず、女児の両親の監督責任も否定された。加害者側は応急措置の治療費150円を負担したが、裁判では更に15万円の慰謝料の支払いが命じられた。(1948年の事故当時の金銭感覚と現在では大いに異なるので、金額は参考にならない)


(2A-21) 【横浜地判昭33.5.20】 10万円
横浜市の米人特設区域内に居住する米軍関係者夫婦同士(隣人)の飼犬による咬傷事件についての損害賠償請求裁判。慰謝料を含む損害賠償130.5万円を請求した被害者は、小型犬の飼主で米軍中佐夫人。一方の加害者側犬の飼主は米軍軍属の米国人男性で、それまでは犬を放し飼いにしていた。軍属米国人民家附近の空地を散策中、米軍中佐夫人の背後より放し飼いの飼犬が突然襲いかかって、夫人の左足首の上部に咬みつき、そのため彼女は多量の出血と激痛を伴い、陸軍診療所において応急措置を受けた後も治癒するまで2カ月以上の期間を要した。米軍中佐は夫として、妻の傷害に対し精神上の苦痛を感じたとして夫固有の慰謝料も請求したが、加害を受けた妻の慰謝料取得をもって満足すべきであり、更に夫としての慰藉料を請求することは社会常識に照し好ましくないと認めなかった。加害犬は、その後、米軍軍属邸内に留置し、放し飼いすることなくなったので、裁判官は中佐夫人に対する慰謝料10万円を認める判決を下した。


(2A-22) 名古屋地判平15.7.29】 懲役3年+犬の没収
名古屋市中川区の庄内河河川敷で、獰猛な体長約1m、体重約20kgの闘犬(American Staffordshire Terrier、2才)の引き綱を放し、男性3人に怪我をさせ、また過去約10回にわたり通行人や散歩中の飼犬を襲った疑いで飼主の男(64才)が傷害罪で起訴された。男は、「放したところに通行人が来るといつも咬みついた」「多少のけがなら治療費を払えばよいと思った」と、飼犬が咬みつく危険性の認識があったことを供述した。その前に、保健所は2度、名古屋市動物愛護・管理条例に基づき繋留の処置命令を出したが、男は従わなかった。判決で、人を咬むのがわかっていながら獰猛な犬の引き綱を放したのは傷害罪にあたるとし、懲役3年、執行猶予5年、犬の没収を命じた。(犬は名古屋市動物愛護センターに引き渡され、安楽死


(2A-23) 【横浜地判昭57.8.6】 懲役6月+罰金5万円
趣味で軍用犬Doberman Pinscherを飼っていた男が、酒に酔ったついでに面白がって通行中の女性に綱から放した犬をけしかけ、足に大けがを負わせたとして逮捕され、傷害罪(刑法§204)等により懲役6カ月、罰金5万円の判決を受けた。この犬は体重24kg、体高・体長共に80cmの大型犬で、女性二人連れだって歩いているところに、自分は茂みに隠れて突然犬をけしかけ45才の女性の右大腿部(直径10cmの咬傷)及び右下腿部(L型の縦2cm、横1cm、深さ1cmで皮膚が完全に咬みちぎられていた)に傷害を負わせた。男は、行商で生計を立てている独り者(離婚)で、犬は保健所に登録もせず、狂犬病の駐車も受けさせていなかった(狂犬病予防法§27違反)。公判廷において反省の情を示し、被害者に見舞金を支払っていること、既に犬の所有権を放棄し、軍用犬訓練所にその措置を委ねていること、飲酒を慎しむことを誓っていることなどを考慮して、懲役6カ月に短縮してもらった。


(2A-24) 【大阪地判昭46.9.13】 0円
飼主宅前に長さ1.5mの鎖で繋留されていた秋田犬(体長1m)の前を通った女性が、突然犬に飛びかかられ、右肘部を咬まれて傷害を負い、約71.7万円の損害賠償を請求した事件。この犬は、食事の邪魔をされたり、身の危険を感じたりしない限り通行人に危害を加えたことがなかった。被害に遭った女性は、わざわざ係留されている犬に近づき、右手を出した際に咬みつかれており、恐らく、食事中の犬を妨害する目的又は頭をたたくなど危害を加える目的で近づいたと推認され、その際に差し出した右肘を反撃的に咬みつかれたと断定されて、これはいわゆる自招行為によって発生したものであるから、飼主に損害賠償責任はないと判断された。