大阪・岸和田のアミ・インターナショナル 行政書士事務所                                  クーリング・オフ、国際法務、ペット法務はお任せ下さい。
  
  
(9)自転車対歩行者の負傷事故判例(金額は概算額)



(9-1)【神戸地判平25.7.4】 9,520万円
平20年9月夜、当時小学5年の男児(判決時15才少年)が神戸市北区の坂道を時速20-30kmのマウンテンバイクで下っていた際、知人の散歩に付き添い中の女性(67才)に衝突、女性は頭蓋骨骨折の重傷を負い、判決時でも意識が戻っていない。女性の成年後見人の夫が約4,590万円、傷害保険金を支払った損保会社が6,000万円、合計約1億590万円を、男児の親権者である母親(40才)に損害賠償請求した。少年の母親は「危険な走行はしておらず、日頃から危険な運転をしないよう指導していた」と自己の過失責任を否定したが、判決は、少年の前方不注意が事故の原因であり、母親に対し「子どもが前方を注視して交通安全を図るべき基本的な注意義務を尽くさなかったと認定し、唯一の親権者としての監督義務違反として、被害者の夫に逸失利益や介護費など約3,520万円、保険会社に約6,000万円の合計約9,520万円の支払いを命じた。


(9-2)【横浜地判平17.11.25】 5,000万円
女子高校生が夜間、携帯電話を操作しながら無灯火で自転車走行中、前方を歩行中の看護師(57才)の女性に背後から衝突。看護師には重大な後遺障害(手足がしびれて歩行が困難)が残った。前方不注視の自転車搭乗者の過失割合を100%とした。


(9-3)【大阪地判平8.10.22】 4,080万円
平成4年8月夕刻時、大阪市内の自転車・歩行者専用道路上(幅員3m)で歩行者男性(71才、短大非常勤講師)が対面から未成年者の運転する自転車に衝突され、転倒、負傷した。18段変速のマウンテンバイクには前照灯がなく、加害者は変速ギア操作に気をとられ前方から目をそらし、時速20-25kmで走行、立っている被害者が目に入った時はブレーキをかける間もなく衝突した。被害者は脳挫傷、頭蓋骨骨折等により後遺障害1級となる。前照灯のない自転車で、しかも目前で被害者を発見するまで前方注視を欠いたまま進行した重大な過失があるが、本件のような河川敷の自転車・歩行者専用道路は、自転車のサイクリング用として利用されており、過失割合は85%と判断された。一方の被害者には、自転車と対面しながら、衝突を回避する措置を何ら取っていない等前方不注視がうかがわれるとして、過失割合15%が相当とした。
一応準サイクリング用道路上での事故であること、被害者の年齢等を考慮して被害者の過失を少なめにみたものと思われる。被害者の請求額8,000万円に対して判決では4,080万円が容認された。加害者の父親が事故後に被害者との間で損害賠償義務につき連帯保証する旨の合意書を作成していたため、親子に損害賠償義務が認められた。


(9-4)【大阪地判平15.2.20】 2,100万円
平11年12月昼間、大阪市本町の交差点付近の歩道上で、歩行中の女性(61才、美容室経営)に業務執行中の会社員が運転する自転車が衝突、歩行者は転倒して大腿骨頸部骨折の傷害を負い、後遺障害8級。会社員は歩道上の人ごみの中に高速度で自転車を侵入させるなど危険性の高い走行をしていた。安全確認と減速をしていれば事故は防げたから、無謀運転の自転車搭乗者の過失割合100%。歩行者の過失割合ゼロ。使用者責任が認められ、自転車搭乗者を雇用している会社も賠償責任を負う。


(9-5)【東京地判平9.8.27】 1,910万円
平成7年9月正午前、東京都区内のガードレール内側の緩やかな下り歩道(幅員1.38m)で自転車の女性が前を歩いていた主婦(61才)に衝突、歩行者が転倒し大腿骨頸部骨折。自転車搭乗者は衝突を避けるためベルを3回鳴らしたが、減速はしなかった。「危ない」という叫びを聞いた歩行者が自転車をとっさに避けようとして体のバランスを崩して勝手に転倒したとの主張は認められず。道交法§54U但書は、危険を防止するためやむを得ない時のみ警音器を鳴らすことができるとしているのであり、歩道を先行する歩行者に避譲させるためにベルを鳴らす行為は認められていない。歩道上においては常に歩行者優先であり、自転車搭乗者の過失割合を100%とした。歩行者の過失割合ゼロ。被害者の請求額ほぼ満額が認められた。


(9-6)【大阪地判平10.10.16】 1,800 万円
平成9年4月朝、東大阪市内の交差点で、信号待ちのため立ち止まっていた歩行者(68才専業主婦)に17才少年が自転車で衝突、歩行者は大腿骨頸部骨折等により股関節に人工骨頭置換術、後遺障害8級。被害者は自分の進行方向の信号が青に変わったので進みだしたところ、信号無視して交差点に入った自転車に衝突された。自転車は歩道を通行していたが、歩行者の通行を妨げることとなる時は一時停止しなければならない(道交法§63-4)。法規違反の自転車搭乗者の過失割合100%、歩行者の過失割合ゼロ。主婦の就労可能年数7年として逸失利益約690万円を含め約1,800万円の損害賠償が認められた。少年の両親に対する監督義務違反(民法§714)については認められなかった。


(9-7)【京都地判昭9.10.23】 1,580万円
平成7年4月正午頃、京都市内の歩道上で、自宅から歩道上に出て車道に向かう途中の主婦(71才)が男性の運転する自転車に衝突され転倒、大腿骨頸部骨折等で後遺障害8級となった。自転車にとって当該歩道は登り坂につき、前方約1m程度の位置に視線を落したまま時速10-15kmの速度で走行、衝突するまで歩行者に気付かなかった。道交法§63-4U(歩道上で自転車は原則徐行、歩行者の通行妨害になる時は一時停止義務)に反し、昼時の交通閑散に気を許し前方注視を怠った落度は重大として、自転車搭乗者の過失割合90%、一方の歩行者は自宅から出て自宅前の幅3.35mの歩道を横断してタクシーを探すため車道に出る途中で本件事故に遭ったが、歩道外から歩道上に出るに際しての安全確認をしなかった過失があるとして、過失割合10%と評価された。


(9-8)【東京地判平8.7.29】 1,450万円
平成4年7月夕刻時、東京都文京区内の歩道上で歩行中の主婦(61才)に対向方向から走行してきた高校生(17才)の自転車がすれ違いざま、自転車のハンドルが歩行者のショルダーバッグの肩ひもに引っ掛かり歩行者が転倒、大腿骨頭頸部骨折の負傷、後遺障害8級。自転車の速度は人が歩くよりやや速い程度であったが、この歩道は地下鉄の駅で下車した人で混雑していて、加害少年は自転車を降りて手押しすべき注意義務があった。ハンドルがすれ違う歩行者の持ち物等と接触などして転倒させ負傷を負わせることは予測できたとして、自転車搭乗者の過失割合100%、歩行者の過失ゼロとした。


(9-9)【東京地判平17.11.28】 1,440万円(歩行者が加害者の例)
平成15年4月午後、西東京市内の団地敷地内の路上で、52才女性(症状固定時56才)の自転車が10才の男の子に衝突、女性は自転車から投げ出され、道路上に落下、大腿骨頸部骨折等により後遺障害併合7級。男児は膝にあざができた程度。女性はパートタイマーとして働きながら家事に従事して子二人と暮らしていた。事故に遭った時は、仕事帰りに自転車でスーパーマーケットに立ち寄り、買物を済ませて帰宅途中であった。事故当日は春休み中、団地敷地内で鬼ごっこなどをして遊ぶ子供がいることを住民である被害者女性が知っていたこと、子供が停車中の車両の陰から走り出てくることを予見することは可能であったから、速度を調節し、停車中の車両から離れて進行すべき注意義務を怠った過失があるとして、加害者男児の年齢も考慮すると、被害自転車搭乗者:加害男児の過失割合は50:50と判定された。(被害者女性の請求3,360万円に対し、判決認定損害額の50%=1,440万円が認容された。)


(9-10)【大阪地判平17.3.22】 1,290万円
平成13年7月正午前、大阪市内の歩道上で、53才会社員女性に業務中の男性が自転車で衝突、歩行者転倒、腰椎圧迫骨折等により、後遺障害併合10級(腰部脊柱変形障害)となる。自転車は事業執行中の事故につき、自転車搭乗者の会社の使用者責任(民法§715)も認められた。歩行者が低い植込みの間から歩道に歩いて出た時の事故であり、自転車搭乗者に前方不注視がなければ歩行者に気づかないことはなかったと判断され、自転車側100%の過失と判定された。歩行者の過失ゼロ。


(9-11)【神戸地判平21.3.25】 1,240万円
相当程度の速度で進行していた自転車が信号機のない交差点で横断中の歩行者(54才、女性)に衝突。女性は顔の骨や歯を折り、後遺障害12級。前方不注視により自転車搭乗者の過失割合70%。幅の広い自転車道路上での事故であり被害者の注視義務違反もあるとして、歩行者の過失割合30%とした。被害者の逸失利益補償額約840万円及び後遺障害慰謝料400万円、合計約1,240万円の損害賠償が認定された。


(9-12)【東京地判平11.10.25】 930万円
平成8年2月日中午後、東京都区内の神田川にかかる橋上の歩道上で対向方向に進行する歩行者(52才専業主婦)と女性の搭乗する自転車が正面衝突。歩行者は腰から後方に転倒、後十字靱帯不全断裂等により後遺障害12級。歩行者は前方から進行してくる自転車に気付いたので歩道西側に寄ったところ、自転車は、その日は風が強かったので、伏し目がちで自転車を運転していたため、歩行者の目前で蛇行気味に西側に寄ってしまい、歩行者に気づいてブレーキをかけたが間に合わなかった。前方不注視義務違反により自転車搭乗者の過失割合を90%、一方の歩行者にも自転車の動向等の安全確認が充分でなかった過失があり、歩行者の過失10%とした。被害者の損害賠償請求額は3,000万円だったが930万円が認容された。


(9-13)【東京地判平8.3.26】 680万円
平成4年4月深夜、東京都区内の車道上、幹線道路(明治通り、片側二車線)を横切ろうとしていた歩行者(55才、男性会社員)に自転車が衝突、歩行者は頭蓋骨骨折、急性硬膜外血種、脳内出血、重度意識障害等となり、労働能力喪失率100%の後遺障害を負った(社会復帰は困難)。明治通りと御苑大通りの二つの幹線道路が交差する交差点には歩道橋があり、横断歩道もあって、歩行者は幅員3.6mの歩道と幹線道路の間のガードレールを跨いで車道に出て、停車していた自動車の陰から車道中央方向に進行したという極めて危険な行為をしたことにつき重大な過失があったと認められ、歩行者の過失割合は80%とされた。照明灯を点け時速15-20kmの速度で走行していた自転車が、急に自動車の陰から飛び出す歩行者を発見してすぐにブレーキをかけたが間に合わず衝突したもので、自転車搭乗者の過失割合を20%とした。裁判所が認めた歩行者の損害額は約3,400万円であるが歩行者の過失割合80%を減額して自転車搭乗者には680万円の損害賠償が確定した。


(9-14)【名古屋地判平17.3.9】 680万円
平成14年12月早朝、名古屋市内の集合住宅前の幅5mの道路を横断しようとしていた歩行者(主婦兼パート社員)に直進してきた自転車が衝突、歩行者は脛骨・関節等の骨折により後遺障害12級の被害を受けた。路上駐車していた自動車の陰になり、衝突直前まで歩行者を見つけることができず、自転車は相当の速度で走行していたためブレーキをかける間もなく、路上に転倒した歩行者の膝の上に自転車が乗り上げた状態となった。自転車搭乗者には安全運転義務違反、前方不注視の過失があり、過失割合80%、一方の歩行者には車道へ侵入するに際しての道路の左右安全確認を怠った過失があり、歩行者の過失割合20%とされた。歩行者は総額1,120万円の請求をしたが、自転車搭乗者に課せられた損害賠償額は認定損害額の80%=680万円となった。


(9-15)【東京地判平7.8.19】 641万円
平成1年12月夕刻時、東京都区内の交差点手前の歩道上において、青信号で横断歩道を横断していた歩行者(70才専業主婦)の後方から直前を左折しようとした自転車(高校2年生)が衝突、歩行者は転倒し大腿骨頸部骨折等により、後遺障害12級となった。前方不注視による危険な運転として自転車搭乗者の過失100%、歩行者の過失ゼロとした。


(9-16)【大阪地判平10.7.30】 620万円
平成7年11月夕刻時、大阪市阪急梅田駅前の「自転車通行禁止」の通路上において、歩行者(48才主婦)に自転車(男性)が衝突。歩行者は脛骨骨折等により、後遺障害14級。当該通路は阪急梅田駅改札階と一階を結ぶエスカレーターを降りたところで、その先のムービングウォークに至る人通りの多い場所。「自転車通行禁止」の標識も立てかけてあり、歩行者を負傷させた過失は100%自転車搭乗者にある。自転車の男性は「歩行者の怪我がひどかったのは女性が両手に重い買い物袋を持っていてバランスを崩して転倒したから」と自分の無過失を主張したが、判決では「歩行者には自転車等に衝突された場合の受傷の程度が拡大しないように荷物を軽くしておくべき注意義務は負わない」といい、歩行者の過失をゼロとした。そもそも自転車が通行すべきでない通路であるので「歩行者には左右の安全を確認すべき注意義務も存しない」と男性の主張は全面的に否定された。


(9-17)【大阪地判昭56.12.22】 610万円
昭和54年10月夕刻時、大阪府豊中市内の路上で、交差点から右折してきた自転車(高校生)と道路を横断中の歩行者(76才主婦)が衝突。歩行者は肩関節脱臼、腕骨折、肋骨骨折等の負傷、後遺障害併合10級。自転車の高校生は下校途中左眼に異物(ゴミか虫)が入ったのでこれを取り除くため、右手をハンドルから離して、右手の甲で左眼をこすり、前方が見えない状態のまま交差点を右折して事故現場にさしかかり、歩行者を路上に転倒させた。一方の歩行者は道路を横断するにあたって左右の安全確認をしなかった不注意があるも76才という年齢を考慮してその過失割合を10%とした。従い、前方不注視の危険な運転をした自転車搭乗者の過失割合は90%となった。


(9-18)【東京地判平18.10.18】 570万円
平成15年4月夕刻時、東京都区内路上の信号機のない交差点(変形十字路交差点)付近で50代男性の自転車が歩行者(60才主婦)に衝突、女性は左大腿骨頸部骨折等の傷害を負う。南から北に向かって進んでいた歩行者と東から西に向かって走行していた自転車の男性の体が衝突、歩行者が路上に転倒した。男性は衝突の瞬間自分は自転車を完全に停止させており、わき見していた歩行者が自分にぶつかってきたと主張するも、事故目撃者の証言から走っている自転車にぶつかったと判断された。自転車の進行速度が歩行者より高速であるから自転車運転者の注意義務の程度は相当に重く、安全確認義務違反による自転車搭乗者の過失割合は70%と判定された。歩行者は交差道路の安全確認を充分に行っていれば事故を防止できたはずとして、安全確認を怠った過失割合30%とした。


(9-19)【神戸地判平17.3.24】 530万円
平成12年8月夕刻時、神戸市内の歩道上でバスから降りた歩行者(64才女性会社員)と自転車(6才女児)が衝突した。歩行者はバスから降りて小走りで数歩進んだところに歩道を直進走行中の自転車と衝突、大腿骨骨折等により後遺障害12級。女児は海水浴の帰途、両親及び2人の姉と全員自転車で縦列で走行していた(女児は5人の丁度真ん中の位置)。歩行者が小走りでバスから歩道に向かってきたとはいえ、自転車搭乗者は前方を注視して安全を確認する義務があり自転車搭乗者の過失割合は60%と判定された。一方の歩行者については、周囲の動静に注意すべき義務があり、左右の安全確認が不充分であったとして、過失割合は60%と判定された。また女児の年齢が6才であることから、両親の監督義務者責任(民法§714)が認められた。



(10)自転車対歩行者の死亡事故判例(金額は概算額)


(10-1)【広島地判平19.10.9】 10,470万円
平成15年10月朝、広島県因島市の県道で、しまなみ海道を走ろう会主催「ツール・ド・しまなみサイクリング2003」参加者の自転車(34才、男性会社員)が歩行者(63才、男性会社社長)に衝突、歩行者は転倒、頭を強く打って脳挫傷・外傷性くも膜下出血・頭蓋骨骨折等の傷害を受け、2時間40分後に死亡した。事故現場は片側1車線の下り坂直線道路で、信号機や横断歩道はなく、歩行者は付近で犬を放して散歩させ道路を横断中だった。犬が自転車の方へ向って行ったため一瞬道路中央で停止したところへ時速30km超の速度のスポーツ系自転車が歩行者に激突した。被害者の社長は年収2,700万円の高額所得者であったことから、遺族は逸失利益1.6億円、慰謝料2,800万円を含め約1.9億円を請求。自転車搭乗者はヘルメットのひさしの下から見るだけで進路前方をよく見ていなかったとして前方不注視等による過失割合70%、一方の被害者は、犬を鎖につながず散歩させていたことによる過失割合30%とした。主宰者側のずさんな管理が指摘され、主催者と搭乗者の共同不法行為(民法§719)が認められたので、認容された損害賠償額1億470万円は主催者と搭乗者が共同で負担する。なお被害者は人身傷害補償保険に加入していたので、保険会社が5,000万円を保険金として被害者遺族に支払い済み、加害者側は損害賠償総額のうち保険金相当額は保険会社に支払うことになる。スポーツ系自転車は時速60-70kmまで出るものもあり一旦事故が起きると凶器になることを知らされる事件だ。(後に控訴した模様)


(10-2)【東京地判平15.9.30】 6,780万円
平成14年5月夕刻時、東京都板橋区内で、自転車の男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38才主婦)と衝突、路上に転倒させ、女性は脳挫傷等で3日後に死亡した。横断歩道を歩行中の歩行者は絶対的に近い保護がされるべきであり、歩行者が両手に買い物袋を提げていたことから咄嗟に退避しにくいという事情があったとしても、過失相殺すべき要素はなく、歩行者に落ち度はないと判定された。「自転車が歩行者を避けようと方向を変え通り抜けようとしたスペースに歩行者が引き返してきたので、歩行者にも過失がある」と自転車搭乗者は主張したが裁判所は認めなかった。加害者の過失100%が認定された。


(10-3)【東京地判平19.4.11】 5,440万円
平成17年11月正午頃、東京都区内の幹線道路交差点で、信号を無視して時速30-40kmの高速で交差点に進入した自転車(37才、会社員男性)が、青信号で横断歩道を通行中の歩行者(55才女性)に衝突した。被害者は路上に転倒、頭蓋内損傷、意識が戻らないまま11日後に死亡した。自転車搭乗者は現場の約30m手前で黄色信号を確認したが、後ろから来る自動車に気をとられ、事故の瞬間の記憶はほとんどないという。加害者は刑法の重過失致死罪にも問われ、禁固1年10ヶ月の実刑判決を受け収監された。たまたまクレジットカードに付帯した賠償責任保険で高額の賠償金を支払うことができたが、刑期を務めて出所した時には仕事を失っていた。もちろん被害者の過失ゼロ。被害女性は、結婚したばかりの娘夫婦が訪ねて来るため、もてなしの買い出しに向かったところで事故に遭った。裁判官は「事故原因は加害者男性の一方的な過失。遺族の思いは胸に迫るものがあり、涙を禁じ得なかった。」と述べた。


(10-4)【横浜地判平17.11.25】 5,000万円
女子高校生が夜間、携帯電話を操作しながら無灯火で走行中、前方を歩行中の女性看護師(57才)と衝突。看護師には重大な障害(手足がしびれて歩行が困難)が残った。


(10-5)【東京地判平14.7.3】 4,950万円
平成12年2月朝、東京都区内の交差点の横断歩道上で、大型犬を鎖につないで対面青信号の横断歩道を横断中の歩行者(59才女性)に、対面赤信号の自転車が停止せず、時速17kmの速度で交差点に進入して衝突、歩行者は死亡した。信号無視の加害者は「歩行者には左右から侵入してくる自転車等がないことを一応確認した上で横断しなければならない義務があった」と主張するも、判決では「歩行者は青信号で道路を横断する時は原則として左右安全確認義務はない」として、歩行者の過失をゼロとした。請求額がほぼ全額認容されたケース。


(10-6)【横浜地判平8.5.27】 3,380万円
平成4年6月早朝、横浜市内の路上で、歩行中の主婦(62才、体重約50kg)を自転車の男子高校生(体重約90kg)が追い越しざまに自転車のハンドルで歩行者の右腕乃至右脇腹に衝突、そのはずみで歩行者勢いよく飛ばされて、3m先のブロック塀に頭を強打、頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下血腫等の障害を受け死亡した。高校生は、後方から自動車が走行してきたので、自転車を車道左側に寄せたが、通学の途中で駅に急いでおり、歩行者避けるためにブレーキをかけることもなく、歩行者の脇を通過しようとしたものの、避けきれずに衝突した。自転車は26-インチ3段ギア、衝突時の速度は時速17-18kmと推定され、衝突後4m先でようやく停止した。車道の幅員は3.9m、両側に0.6mの路側帯があるが、事故現場付近の交通量は非常に激しく、一般車両の最高速度が時速30kmに制限されている時間帯であった。重大な結果を引き起こすことになった原因は自転車の速度に加え被害者・加害者の体重差も影響していると判断される。衝突地点が路側帯から車道に10cmほど入ったところだったので歩行者の過失割合20%、自転車搭乗者の過失割合80%とした。5,500万円の請求に対し、3,380万円の賠償額が認容された。


(10-7)【名古屋地判平14.9.27】 3,120万円
平成7年1月夕刻時、愛知県瀬戸市の路上で事故発生。75才女性が道路端を歩行中、対向する自転車に衝突。男子中学生(14才)は夜間無灯火で歩道・車道の区別ない道路でマウンテンバイク走行、衝突後、少年は救急車を呼ばず警察に連絡もせず、ただおろおろして、見知らぬ通行人に言われるままに自宅に電話しただけ。歩行者は頭部外傷(脳挫傷、急性硬膜下血種、外傷性くも膜下出血等)により後遺障害2級、入退院を繰り返し(合計277日入院、122日通院)事故の約5年後に死亡した。遺族5人が本人死亡後も裁判を継続、判決で3,120万円の損害賠償が命じられた。自転車搭乗者には前方の安全確認を怠り、無灯火のまま自転車を進行させた重大な過失があるが、歩行者にも衝突接触を回避するため進路前方の安全確認を怠った過失あり、加害者:被害者=85:15の割合で過失相殺とする。裁判の賠償金額は3,120万円だが、事故発生から判決まで7年半ほどの年月が経過しており、加害者はその間の金利5%(複利計算)も負担するので、金利込みで4,540万円となった。
(両親に民法§714=法定監督義務者の民法§709責任は否定された。事故の直後に連帯保証をした両親の連帯保証責任も否定された。)


(10-8)【大阪地判平19.7. 10】 3,000万円
平成17年12月夕刻時、大阪府内幅2.5mの歩道上、15才男子中学生の自転車が無灯火で速めの速度で進行中、歩行者(62才男性会社員)に正面衝突、歩道上に転倒させ死亡させた。歩行者の過失ゼロ。日没後だが歩道には街灯等がありやや明るい状態、手前の交差点の信号機が青信号のうちに早く渡ろうと速度を上げて事故を起こした。中学生は裸眼で0.2程度の視力で通常眼鏡をかけているが、事故当時は呼気で眼鏡が曇るため眼鏡を着用していなかった。また自転車が歩道(幅2.5m)上を通行する場合は中央(1.25m)から車道よりの部分を徐行すべき(道交法§63-4U)ところ、車道から1.8mのところを通行していた。親権者の監督責任(民法§714)も問われたが、加害少年は普段から危険な自転車運転をしていた事実はなく、過去に同様の交通事故を起こしたこともないことから親権者の監督義務違反は認められなかった。被害者は人身傷害保険に加入しており、損保会社が保険金3,000万円を支払ったので、本訴訟は損保会社による求償訴訟となり、損保会社が原告となって加害者を訴えた。


(10-9)【大阪地判平8.10.22】 2,581万円
自転車の男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55才)に衝突。女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡した。


(10-10)【大阪地判平6.2.18】 2,380万円
平成3年11月日中、大阪市内の幹線道路上において、男性の二人乗り自転車が幅員14mの車道を小走りに横断中の歩行者(57才女性)に衝突、女性は転倒しその後死亡した。自転車搭乗者危険な形態での二人乗り運転をし、しかも道路左側端に沿って進行すべきところ、渋滞車両の間を通りほぼセンターラインを通行していて衝突事故を起こしたから、加害者の過失割合60%とされた。一方の歩行者は、両手に買い物袋を持って、歩行者横断禁止の幹線道路を横断しており、同時に前方不注視の過失もあり、被害者の過失割合40%とされた。
裁判は被害者の遺族(子孫)がし、損害賠償請求額は4,950 万円、裁判所が認めた被害額は3,960万円、加害者が負担すべき損害賠償額はその60%=2,380万円となった。


(10-11)【千葉地判平1.2.28】 2,200万円
昭和60年9月日中、自転車乗入禁止の公園の遊歩道で高校生の写生の絵を見ていた男性(65才、年金生活者)にスポーツ系自転車で他の生徒と競争しながら疾走していた同じ高校の男子同級生の自転車がわき見運転から衝突、男性は転倒して路上に後頭部を激突させ、1週間後病院で急性硬膜下血腫により死亡した。高校生は所属する高校の校外授業である写生のために公園に来ていたが、写生に飽きて自転車を乗り回していたところだった。男性の遺族は高校生には事故回避措置不適切の過失があったとして民法§709に基づき、高校生の所属する県立高校には加害生徒の監督責任があったとして国家賠償法§1に基づき、損害賠償を請求した。裁判所は、「前方不注意、事故回避措置不適切の過失があった」として加害高校生の責任を認め、県立高校については「担当教諭が適宜巡回するなどして生徒の行動を把握し事故を未然に防止する措置を怠った」として国家賠償責任も認められた。被害男性の逸失利益については平均余命を約15.5年として約1,500万円を認容、損害賠償計約2,200万円を認めた。


(10-12)【大阪地判平10.10.16】 1,620万円
平成3年1月夕刻時、東京都昭島市の歩道上で、下り坂を走行中の自転車(14才男子中学生)が歩行中の女性(74才)に正面衝突、歩行者は弾き飛ばされて歩道と車道の堺の植え込みの補強杭に頭を強打し、脳挫傷等により後遺障害2級、その1年半後に急性心不全により死亡。道交法§63-4U(歩道上で自転車は原則徐行、歩行者の通行妨害になる時は一時停止義務)を無視して、自転車は歩行者を衝突2秒以上前に発見していたが減速しなかったという重大な過失があった。歩行者は幅2.1mの歩道の中央付近をショッピングカートを引きながらゆっくり上っていた。14才の若年でも自転車を安全に運転する能力は大人とさして変わらないとして、自転車搭乗者の過失割合100%、歩行者の過失ゼロ。


(10-13)【大阪地判昭60.1.29】 1,580万円
昭和57年9月日中午後、大阪市住吉公園内の道路上にて、歩行者(62才主婦兼保険外務員)の背後から小学6年男児(12才)の5段変速機付ミニサイクル自転車が衝突、4m先の路上に主婦を転倒させ、はずみで主婦は頭を強打し、頭蓋底骨折、意識不明、1週間後死亡。男児は公園内で自転車に乗りながら追っかけっこの遊戯に夢中になり、自分が追われていたので後の追手に注意を奪われ前方をよく見ていなかったばかりか、衝突の瞬間は自転車のギアを4段に入れて高速度で進行していたことにより、過失割合100%、歩行者の過失割合ゼロと判断された。12才男児の不法行為責任(民法§709)は責任無能力者として否定されたが、両親の監督義務者責任(民法§714)が認められた。


(10-14)【東京地判昭52.12.20】 1,480万円
昭和48年3月夜間、東京都区内の道路(幅7.1m)を横断中の歩行者(39才男性工員)に直進の自転車(13才男子中学生、体重60kg)が衝突、打ちどころ悪く歩行者死亡。少年を含む5人は学習塾帰りの中学生で、全員スポーツ型の5段変速自転車に乗っていた。ハンドルの両端の握りのところが低くなっているドロップ式のため下方を見ながら走行していたので、道路を横断する歩行者に気付いた時はほぼぶつかっていた。歩行者は多少酒に酔っており、不注意に横断歩道でもない車道を横断しようとした過失があり、歩行者の過失割合を10%とし、前方不注視の自転車搭乗者の過失割合を90%とした。なお死亡事故にもかかわらず遺族の損害賠償請求額が控えだったため、裁判所が認めた損害額約1,600万円に対し、逸失利益のみ歩行者の過失相殺10%として、1,480万円が認容された。



(11)自転車相互事故判例(金額は概算額)


(11-1)【大阪地判平14.6.11】 3,730万円
平成11年7月午後、兵庫県西宮市の路上で二人乗りの自転車が坂道を下りながらかなりの高速度で三叉路に差し掛かったところで対向進行してきた自転車(69才男性、厚生年金受給者)とほぼ正面衝突した。被害者は脳挫傷、脳内出血、急性硬膜下血腫等の傷害を受け、病院で緊急手術をしたものの植物状態に陥り、事故の1年4カ月余後に入院したまま、慢性気管支炎から肺炎を併発し死亡。事故で脳挫傷などの傷害を被ったことと肺炎を併発し死亡したことの間に相当因果関係があるかが裁判の争点ともなったが、事故後も被害者の意識が回復せず自発呼吸ができなかったことから、チューブ挿入を余儀なくされ、感染症による気管支炎を発症しやすくなったこと、死亡する4日前に気管支炎から肺炎を併発したことから、事故と死亡の相当因果関係が認められた。加害者は交差点の状況に応じて安全な速度と方法で進行すべき注意義務の違反に加え、車両通行区分に違反して道路右側を通行するという重大な過失があった。加害者の過失割合100%。被害者にとっては登り勾配につき事故当時それほど速度を出していたとは考えられず、他にも過失は認められないとして、被害者の過失割合ゼロ。平均余命を約13年として逸失利益(厚生年金収入)約1,070万円を含む、損害賠償額3,730万円を認めた。(請求額は4,951万円)


(11-2)【埼玉地判平14.2.15】 3,140万円
男子高校生が朝、自転車で歩道から交差点に無理に進入し、女性の保険勧誘員(60才)が運転する自転車と衝突。
保険勧誘員は頭蓋骨骨折、9日後に死亡した。加害者の過失割合 100%。


(11-3)【大阪地判平7.3.24】 1,493万円
平成5年7月朝、大阪市内の交差点手前の横断歩道を渡り切ったばかりの自転車(67才主婦)に真横から進行してきた自転車(女性)が側面衝突、被害者が転倒し、大腿骨頸部骨折、後遺障害4級。被害自転車過失ゼロ。事故の原因は加害者が赤信号を無視、前方注視を欠いて進行したことによる過失、不法行為責任を負う。


(11-4)【東京地判平1.5.26】 1,089万円
昭和61年9月27日5:00p.m.、東京都練馬区内、三差路の横断歩道を信号に従って横断中の自転車(52才主婦兼パート薬剤師)に、信号無視の自転車(15才少年、中学生)が時速20kmで側面から衝突、被害者の主婦は頭蓋骨骨折、顔面変形等の後遺障害。少年は塾に向かう途中で授業開始時刻に遅れていたためあせっていた。被害者の過失ゼロ。少年の父親が全損害の債務引受をしたと認定された。


(11-5)【名古屋地判平12.8.30】 1,058万円
平成6年6月15日8:40p.m.、名古屋市内の幅5mの歩道上において、先行自転車が進路変更の後停止したところに後続自転車(61才主婦)が衝突した事故。突然進路変更をして停止した加害自転車(同じく女性)に直進の後続自転車が衝突、両者ほぼ同じくらいの相当程度の速度で進行していた。被害者は大腿骨頸部骨折、後遺障害8級。加害者には後方から侵攻してくる他の自転車の動静を確認して進路変更し他の自転車の走行を妨げることのない位置で停止しなかった過失がある一方、被害者にも前方不注視の過失があり、過失割合は50:50とする。被害者の損害請求額は3,706万円だが、裁判所が認定した損害額は2,116万円。被害者・加害者共に1,058万円の負担となった。


(11-6)【東京地判平7.3.17】 1,007万円
平成4年9月12日2:30p.m.、東京都区内の見通しの悪い交差点における自転車同士の出会いがしらの衝突事故。双方共にブロック塀で見通しが悪いことを熟知しながら減速せず安全確認をしないまま交差点に進入、加害自転車(女性)前部が被害自転車(61才男性工員)の右側面に衝突した。被害者は転倒、大腿骨頸部骨折、後遺障害8級、自転車のチェーンは脱落していた。しかし双方の安全確認注意義務違反の程度は同等として、過失割合は50:50とされた。


(11-7)【東京地判平11.4.16】 999万円
平成8年11月1日10:30a.m.、東京都内の見通しの悪い交差点における自転車同士の出会いがしらの衝突事故。被害自転車(62才専業主婦)が直進していたところに三叉路交差点を右折してきた自転車(18才少年)が衝突、被害者は直進しており、加害者には一時停止線を無視(一時停止義務違反)した過失がある。女性は脛骨高原骨折、後遺障害12級、


(11-8)【東京地判平16.12.6】 930万円
平成14年5月15日6:15p.m.、東京都区内交差点で、追越自転車が被追越自転車(63才主婦)を追い抜こうとした時に接触事故を起こした。追越車が右側から追い抜こうとしたところ、追越車の左側後部が被追越車の右側前部に接触、主婦が進行方向の右側路上に転倒した。追越車は信号待ちすることなく時速15km程度であったのに対し、被追越車は信号待ちの静止状態から時速7-8kmほど出したところで衝突し、鎖骨骨折等の傷害を受け、後遺障害12級。後行車が先行車の進路前方に進入するに当たっては、安全な方法で進入する注意義務があったのにこれを怠ったとして、追越車の過失割合を80%とした。一方の被追越車には併走状態にあった追越車の進行状況を認識し、事故を回避する義務があったとしてその過失割合を20%とした。1,580万円の請求に対し930万円が認容された。


(11-9)【横浜地判平19.1.15】 900万円
平成14年12月25日正午、横浜市内の交差点で発生した自転車同士の衝突事故。双方に一時停止規制がない丁字型交差点において、優先道路(両端に歩道あり、車道幅6.6m)を直進する加害車両(未成年女性)と道幅3.7mの交差点を右折しようと進行してきた被害車両(61才女性公務員)がそれぞれの前輪で衝突、双方とも転倒、被害車両の女性は路面に下半身を打ちつけ大腿骨頸部骨折、結果的に労働能力喪失率45%の後遺障害を負った。本交差点には信号機は設置されておらず、家屋に遮られて見通し不良であった。双方とも交差点においては安全確認義務不履行の過失あるが、優先道路を直進していた加害車両の過失をやや少なく評価して40%、被害車両の過失を60%とした。その結果、被害者の損害賠償請求額約4,300万円に対して、裁判所は約900万円の損害賠償を認容した。


(11-10)【東京地判平19.10.31】 830万円
平成16年6月28日5:10p.m.、東京都区内の信号機のない交差点で、発生した自転車同士の衝突事故。加害車両(男性会社員)は交差点を直進、その左側から右折してきた被害車両(57才女性、居酒屋経営者)が交差点内で衝突、女性は右足関節脱臼骨折、胸部挫傷の傷害を負い、労働能力喪失率14%の後遺障害。このような双方に安全確認義務懈怠の過失ある衝突事故における双方の過失割合は通常50:50となるべきところ、加害車両の運転者は交差点に進入した被害車両に気づいた者の先に通過できると安易に考えて加速しつつ高速で直進を継続した過失を考慮し、加害者60%、被害者40%の過失割合とした。なお加害者の使用者であり、加害車両を所有する会社に対する使用者責任も認容され、損害賠償額約830万円は加害者とその使用者の双方で負担することになった。


(11-11)【東京地判平19.5.15】 820万円
平成15年11月夕刻時、東京都区内の交差点前丁字路上で、右折自転車に直進自転車が衝突した。先行車(72才女性著述業)が後写鏡(ミラー)で後方確認した上でゆっくり右折したところに後続車(13才男子中学生)が猛スピードで前方注視せず突っ込み、衝突地点から女性は0.6m、女性の自転車は1.3m地点に転倒、少年と自転車は2.9mの地点に転倒した。少年は約40m先の信号機が青になったのを見た地点で自転車の速度を上げブレーキをかけずに衝突、夜間の無灯火運転と相まって女性は脛骨粉砕骨折等により労働能力喪失率10%の後遺障害を負った。通常、進路変更中の先行車に直進の後続車が衝突した場合の過失割合は50:50程度であるが、この事故では加害少年は夜間無灯火、高速度で一切前方を注視をしておらず、極めて危険な運転と判断されて過失割合90%と判断された。一方の被害女性は右折に際しある程度後方確認を実行していたが、加害車の速度等からすれば結果回避も困難であったと思われ、右折の合図をしなかった落ち度だけ認められ、過失10%と判断された。損害賠償請求額1,500万円に対し、裁判所が認容した賠償額は約750万円となった。なお、日頃から少年がスピードを出して自転車に乗っていることを親権者も知っていて、注意監督義務を果たしていなかった親権者の監督義務違反による責任(民法§714)も認められた。


(11-12)【東京地判平6.10.18】 790万円
平成4年2月26日8:00-8:30p.m.頃、埼玉県越谷市内の見通しの悪いY字交差内で、自転車同士の対面衝突。交通混雑する通勤・通学時間帯に追突車(42才男性会社員)が左折しようとしたところで、右折しようとしていた被追突車(女子学生)が危険を察してブレーキをかけ停止した途端に衝突した。追突車側の交差点手前には大きな「止まれ」看板が設置してあるにもかかわらず男性は減速しただけで停止せず、前方確認も不充分のまま漫然と進行した過失あり、一方の被追突車は道路の左側を走行すべきところ右側走行しており、前方不注視の過失もある。対面衝突の原則は過失割合50:50だが、追突した男性側の被害の程度が左眼失明(後遺障害8級)と大きく、裁判所が認定した損害額が3,150万円(男性の請求額は7,340万円)に及ぶことから、追突された女子学生側も事故の過失割合25%と認め、左眼失明した会社員に対し約790万円の損害賠償が認容された。従い、追突した男性会社員の過失は75%となった。


(11-13)【東京地判平19.7.4】 590万円
平成11年10月7日11:30a.m.、東京都区内十字路交差点で直進していた被害自転車(85才男性)に真横から直進してきた加害自転車が接触、被害者が転倒し大腿骨頸部骨折の傷害を負った。男性はその後死亡したのでその相続人が訴えたが、加害者は過失100%を認め、約590万円の損害賠償が認容された。


(11-14)【東京地判昭58.4.28】 550万円
昭和54年7月21日3:30p.m.、東京都区内交差点における自転車同士の出合頭の衝突事故。普通の速度で直進して交差点に差しかかった被害車(54才主婦)に真横から速い速度で直進してきた加害車(14才男子中学生)が衝突、主婦は自転車もろとも転倒して膝を路面に強打、下腿骨膝関節内骨折、後遺障害12級の傷害を負った。出合頭の衝突では過失割合50:50が基本となるところ、道交法§36T@により、交差点内においては左方優先の原則があり、被害車は加害車の左方向から進行していたので優先車両であったこと、加害車の速度が速かったこと等から加害者の幼年性を考慮しても加害者の過失割合60%を相当とし、被害者の過失を40%とした。なお認容された損害賠償額550万円の内、加害者440万円、健保組合110万円である。


(11-15)【大阪地判平14.7.31】 550万円
平成11年3月24日7:40a.m.、大阪市内の十字路交差点で起こった自転車同士の衝突事故。被害車(女性会社員)は青信号で直進しようとしたところに信号無視した加害車(男性)が赤信号で交差点に進入、衝突した。被害女性は転倒した際の打撲等が原因で局部に神経症状を残し、後遺障害14級。裁判で加害男性は「女性が右方の注視を怠って速い速度で進行してきたために事故が発生した」として無過失を主張したが認められず、信号無視して交差点に進入した加害者の過失を100%とした。被害者には「交差道路から赤信号を無視して進出してくる自転車等の存在を予想してその安全を確認すべき注意義務は存しない」として、判決で被害者の過失をゼロとした。道交法§7により、信号機表示遵守は絶対である。



(12)自転車対自動二輪車事故判例(金額は概算額)


(12-1) 【東京地判平17.9.14】 4,040万円
旋盤工(62才)の男性が運転するオートバイが、朝、信号機のある交差点を直進していたところ、男子高校生が赤信号を無視して交差点に進入し、横断歩道上でバイクと衝突した。オートバイの男性は転倒して外傷性頭蓋内損傷の傷害を負い、13日後に死亡した。裁判所は過失割合を加害者である自転車運転者80%、被害者であるバイク運転者20%とした。この加害事故により高校生は家庭裁判所から保護観察の処分を受けた。